『データヘルス計画作成の手引き』第3期の変更点は?ポイントをわかりやすく解説
『データヘルス計画作成の手引き』第3期改訂版(以下『手引き』)が2023年6月末に公表されました。これまでのデータヘルス計画と大きく内容が変わる点は見受けられず、分量は前回の2/3程度となっていますが、一見して難解な点も少なくありません。
今回は、そうした『手引き』の中から特に重要なポイントをピックアップして解説します。
目次[非表示]
- 1.第1章 データヘルス計画の背景とねらい
- 2.第2章 計画に記載すべき事項
- 3.第3章 データヘルス計画の作成と評価・見直し
- 3.1.STEP1 現状を構造的に把握する
- 3.2.STEP1-1 基本情報の把握
- 3.3.STEP1-2 保健事業の実施状況
- 3.4.STEP1-3 基本分析
- 3.5.STEP2 健康課題の抽出と優先順位づけ
- 3.6.STEP3 課題解決に向けた事業設計と目標・評価指標の設定
- 3.7.補足:ロジックモデルについて
- 3.8.STEP4 事業評価と見直し
- 4.おわりに
第1章 データヘルス計画の背景とねらい
データヘルス計画の背景や目的のほか、他の計画や制度(特定健診・特定保健指導、保険者インセンティブなど)との関係、関係機関との協働について記載されている章です。データヘルス計画の目的が「国民の健康寿命延伸を目指す新たな仕組みづくり」であるという原点を改めて押さえておきましょう。
さらに第3期の『手引き』では、データヘルス計画が企業の健康経営に活用されている点にも言及。「人的資本経営」といったホットなキーワードも登場しています。第3期データヘルス計画の策定においては、事業主の健康経営を踏まえたコラボヘルスを改めて意識し、事業設計を行いたいところです。
第2章 計画に記載すべき事項
第3期データヘルス計画の期間(令和6(2024)年度〜令和11(2029) 年度)や公表・周知に関するルール、「データヘルス・ポータルサイト」(以下、ポータルサイト)上で入力が必要な項目(第2期と変更なし)などについて説明されている章です。
同章で確認しておきたいのは「公表・周知」のルール。データヘルス計画の公表については、保険者の懸念からなかなか進んでいないのが課題でしたが、第3期においても方針の変更はなく、ホームページや機関誌などでの公表が求められています。
また新たな要素としてポータルサイトに相互閲覧機能が実装され(2023年6月〜)、他健保組合による計画書の詳細を参照し、計画立案・事業設計に活用できるようになりました。詳細を閲覧するには「相互閲覧機能についての同意」にチェックを入れる必要がある点に注意しましょう。
第3章 データヘルス計画の作成と評価・見直し
データヘルス計画におけるPDCAの具体的な手順を、ポータルサイト上のSTEP1〜4と対応させて解説している章です。なお、手順自体に変更はありません。
STEP1 現状を構造的に把握する
STEP1は3つのセクションに分かれています。
STEP1-1 基本情報の把握
加入者の属性、事業所の概要、健保組合の取り組み、事業主の取り組みを記入した上で、これらの情報をもとに「基本情報から見える特徴」を分析して記載します。
分析内容の記載に悩んだ際は『手引き』P.32にある「事例から見る STEP1-1基本情報に基づく特徴把握のポイント」を参考にしてみましょう。記入例として、健保組合の規模や加入者の所在地、被扶養者の割合、医療専門職の充実度などについて記載されています。
STEP1-2 保健事業の実施状況
前期(第2期データヘルス計画)における保健事業の実施状況を棚卸し、入力します。記入項目が多いですが、第2期同様、前期で実施した保健事業を一括でコピーできる機能が実装されれば、記入を省力化できる見込みです。
STEP1-3 基本分析
レセプトや特定健診結果などのデータから基本分析を行い、ポータルサイト上に分析結果(PDFファイルなど)をアップロードします。分析方法は各健保組合にゆだねられていますが『手引き』P.35以降に記載されている基本分析の考え方を押さえておきましょう。
<基本分析の考え方>
被保険者の健康状況の把握 |
保健事業の対象とすべき疾病の抽出と分析 |
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対策が可能な疾病のリスク分析 |
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保健事業の実施状況の把握 |
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このうち、共通の評価指標*1 については、ポータルサイトでグラフを自動作成できるデータの集計・可視化機能が2023年7月に実装される予定で、分析に活用できます。ただし、それだけでは不十分であるため、各健保組合でも個別に分析を行いましょう。
なお、分析データをアップロードする際は、事業項目別(特定健診、特定保健指導、生活習慣病など)にファイルをまとめて登録すると、 STEP2以降の作業が容易になります。
*1 「特定健診実施率」「特定保健指導実施率」「内臓脂肪症候群該当者割合」など。『手引き』の附録に記載。
STEP2 健康課題の抽出と優先順位づけ
まずSTEP1-3で登録した基本分析から健康課題を抽出し、各課題に対する対策の方向性を記入します。いずれもカテゴリをリストから選び、それぞれにコメントを記入する形になっています。
- 健康課題のカテゴリ:医療費・新生物、健康状況、生産性、その他
- 対策の方向性のカテゴリ:保健事業の基盤、個別の事業
その上で、解決を目指す健康課題(保健事業)を選定。優先順位の決め方について、手引きでは以下を基準に考えるとよいとされています
- 課題は重大であるか(対象者数、 医療費、 悪化状況、 加入者全体への影響)
- 保健事業の実施効果が期待できそうか(保健事業によって予防効果が期待できるか、健診や検診でリスク保有者を把握可能か)
- 着実に前進できそうな課題か
これらに加え「後期高齢者支援金加算・減算制度の総合評価指標」に記載の内容も参考にすると、より優先順位をつけやすいでしょう。
STEP3 課題解決に向けた事業設計と目標・評価指標の設定
目標や評価指標、事業の対象や実施方法を検討するSTEPです。具体的には以下の作業を行います。
基本分析(STEP1)や健康課題(STEP2)を踏まえ、保健事業全体の目的・目標を設定。
抽出した課題の解決に資する事業を「保健事業の基盤」「個別の事業」ごとに設定。ポータルサイトで、それぞれの保健事業計画に対応する健康課題の紐づけが可能*2。
保健事業の基盤:職場環境の整備、加入者への意識づけ
個別の事業:健康課題に応じた、効果が高いと見込まれる事業(特定保健指導、疾病の重症化予防、重複受診への指導、後発医薬品の使用促進など)
各保健事業について評価指標(アウトカム評価指標、アウトプット評価指標)や目標を設定し、対象者、実施方法(プロセス)、実施体制(ストラクチャー)、予算額などを検討。
この際、評価指標は追跡しやすく、毎年の評価(STEP4)を行いやすいものを設定することが重要です。具体的には、集計・抽出しやすい項目や、NDB から抽出できる共通の評価指標などを設定するとよいでしょう。
なお、このSTEP3の入力に当たっては、従来どおり前期分(第2期データヘルス計画)の取り込みが可能です。また特定健診・特定保健指導などの主要事業は、評価指標、プロセス、ストラクチャーがプリセット登録される予定とのことです。
*2 健康課題と紐づかない既存事業がある場合は「事業の継続・再編を検討する好機である」と記載されています。
補足:ロジックモデルについて
「アウトプット」「アウトカム」「プロセス」「ストラクチャー」といった用語は、いずれも「ロジックモデル」という考え方に基づいたものであり『手引き』P.44に記載の「評価の構造と内容」で定義づけされています。ロジックモデルとは、事業・組織における最終的な目標の実現に向けた道筋を体系的に図示化したもので、事業の設計図とも呼ばれます。
一例として、生活習慣病対策に関する最終的な目標(KGI)として「生活習慣病イベント発症ゼロ」「生活習慣病医療費抑制」を設定した場合、この実現のために必要な要素をブレイクダウンしながら、アウトカム、アウトプットといった、より小さな目標を設定していきます。
例えば、アウトカム(中間ゴール)は「医療機関受診率」、アウトプット(アウトカム実現のための目標=保健事業による具体的な結果)は医療機関受診勧奨通知件数などを指標に、目標を設定できるでしょう。
STEP4 事業評価と見直し
STEP3で設定した評価指標に基づき、事業の達成度を毎年・中間(3年目)・期末(6年目)のそれぞれで把握します。具体的な作業としては「実施状況・時期」「成功・推進要因」「課題及び阻害要因」を整理し、ポータルサイト上に記入します。この評価結果をもとに、次年度の保健事業計画を適宜見直します(STEP3に戻る)。
おわりに
第3期の『データヘルス計画作成の手引き』は前期からの大きな変更点はありませんが、6年ぶりの計画策定ということもあり「初めて計画策定を経験する」「久しぶりで忘れてしまった」という担当者も少なくないのではないでしょうか。
改めて手順を確認するとともに、ポータルサイトの新機能などの追加要素を押さえておきましょう。計画策定は大がかりな作業になりますが、ただ義務的に対応するのではなく、ぜひ保健事業の実効性向上につなげたいところです。
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(参考URL)
『データヘルス計画作成の手引き』第3期改訂版