コラボヘルスとは?データヘルス、健康経営の相乗効果を発揮するポイントと注意点
コラボヘルスとは、健康保険組合や協会けんぽなどの保険者と事業主が連携して、加入者の健康増進に向けた取り組みを行うことです。
保険者側ではデータヘルス計画実施などの観点から、事業主側では健康経営の観点からその重要性が指摘されており、政府による公的な指針などでも多数言及されています。
今回は、こうしたコラボヘルスの基礎知識をおさらいしながら、押さえておきたい実践のポイントや注意点を解説します。
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コラボヘルスの背景~求められる保険者機能強化と健康経営
コラボヘルスへの注目度が高まっている背景には、超高齢社会となった現代において、保険者による保険者機能や事業主における健康管理の考え方が変化していることがあります。
保険者側では、高齢者医療への拠出金増加など厳しい財政状況下において、加入者の健康増進、医療費抑制が喫緊の課題に。特定健診・特定保健指導を始めとする保健事業の実効性向上が一層求められるようになっています。2015(平成27)年にスタートしたデータヘルス計画や、2018(平成 30)年に導入された後期高齢者支援金の加算・減算制度も、その一環として位置づけられます。
一方、事業主においては、労働力不足が深刻化する中、生産性向上や人材定着率向上に向けて従業員の健康に投資する「健康経営」が不可欠になっています。従業員の平均年齢上昇に伴って増大する生活習慣病リスクや、体調不良による労働生産性の低下(プレゼンティーズム)、がんやメンタルヘルス疾患の治療と仕事の両立など、取り組むべき健康課題は多種多様。労働安全衛生法上の健康管理の領域を超えた健康づくり施策が必要になっています。
こうした新たな健康づくりの取り組みに当たっては、保険者、あるいは事業主単体の力では限界があります。例えば、喫煙対策事業を効果的に行うためには、保険者が持つデータに基づき、実態に即したプログラムを企画するとともに、職場内を禁煙にするなど、事業主が環境を整備することも欠かせないでしょう。
以上のような状況を踏まえ、保険者側では「健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針」や「データヘルス計画作成の手引き」、事業主側では2021(令和3)年改正の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(THP指針)に、保険者と事業主の連携の重要性が明記。さらに実務に即したガイドラインとして「データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン」(2017(平成29)年)も整備されています。
コラボヘルス推進のメリット
コラボヘルス推進により保険者、事業主それぞれが期待できるメリットは、具体的に次のように整理できます。
保険者:保健事業の基盤を環境面、リソース面で強化
保険者側では、保健事業を行うためのリソースを強化したり、保健事業をスムーズに行う環境を整備できるメリットがあります。例えば、以下のような事業運営が可能になります。
例)
- 一部の事業を事業主と共同で運営し、財源、人材を補完
- 事業主が保有する定期健診データや労務データ(残業時間数、有給休暇取得率など)を共同利用し、データヘルス計画の立案に活用
- 事業主と調整し、加入者が特定保健指導や一部がん検診などを就業時間中に受けられるような環境を整備
- 健診の受診をトップダウンで周知し、受診率向上
こうした実効性の高い保健事業の実施により、加入者の健康増進、医療費抑制につながることが期待できます。
事業主:ノウハウ、データの共同活用で健康経営を推進
事業主側では、健康経営において保険者が蓄積してきた保健事業のノウハウや医療・健康データを活用できるメリットがあります。効果的な健康経営の推進によって以下のような成果が期待でき、結果的に、企業業績の改善にもつながると考えられます。 *1
例)
- 従業員の活力向上、病休・離職の減少による労働生産性の向上
- 「健康経営優良法人」の認定、「健康経営銘柄」の選定など社会的な評価向上
- 上記による優秀な人材獲得、投資対象としての魅力向上
*1 2013年に発表されたアメリカの研究では、アメリカにおける優良健康経営表彰企業は同国の大企業平均を上回るパフォーマンスを上げていることが明らかになっており、企業業績と健康経営の相関関係が示唆されています(Raymond Fabius, et al. (2013))
コラボヘルス推進の流れと成功のポイント
実際にコラボヘルスを推進する際の流れは、おおむね以下の通りです。
- 課題の整理
- 推進体制の整備
- 現状の把握
- 目標・計画立案
- 役割分担による実行
- 評価、改善
※「4.目標・計画立案」~「6.評価、改善」のプロセスではPDCAを回し、事業を継続的に改善
以下では、コラボヘルスの成功に向けて特に押さえておきたいプロセスをピックアップして解説します。
推進体制の整備:意思決定の迅速化、医療専門職の関与がカギ
コラボヘルスの推進体制は、経営陣、人事部・総務部、健康管理室、保険者、労働組合などを中心に、組織横断的に構成します。この際、経営者直轄の組織とすると意思決定がスムーズです。また、産業医や保健師などの医療専門職や外部専門事業者が関与できる仕組みにすると、専門的なノウハウを活かした施策の企画・実施が可能になります。
議論の場としては「コラボヘルス委員会」「健康経営推進会議」といった定例の会議を設けます。併せて、事業主側の健康管理室と保険者の執務室を隣接させるなど、日常的にコミュニケーションを交わせる仕組みを整備するのも有効です。
現状の把握:「健康白書」で健康情報を可視化
「既存事業の実施状況」と「健康状況」の2つの側面から現状を整理します。
既存事業の実施状況については、各事業の目的や背景を整理し、重複したものや目的が不明瞭なものはないかを精査。併せて、各種健診・検診の受診率や、健康プログラムの参加率などを把握します。
健康状況は下表の項目を中心にデータを整理、集計、分析します。保険者と事業主で情報共有しやすいよう、集計、分析結果はグラフや図表で視覚化して「健康白書」にまとめることが推奨されています。また、健康スコアリングレポートの活用も重要なポイントとなります。
主な項目 |
集計、分析方法(例) |
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目標・計画立案:共通指標の設定がポイント
データから把握した課題を踏まえ、コラボヘルスにおける目標・計画を立案します。この際のポイントは、事業主と保険者で共通の指標を設定すること。例えば「健診の受診率」「喫煙率」「健康プログラムの参加率」などは共通で関心の高い指標だと考えられますが、その先にある「医療費」は主に保険者にとっての重要指標、「生産性(プレゼンティーズム)」は事業主にとっての重要指標と、関心度合いが異なります。両者の間で課題認識や最終的な目的が違う点を考慮し、それぞれの立場を尊重した目標設定がカギとなります。
役割分担:運営の効率化が加入者の利便性向上にもつながる
事業実施に当たっては、運営上の無駄や重複がないよう、また加入者(従業員)の混乱を招かないよう、保険者、事業主の明確な役割分担が重要です。以下はその一例ですが、それぞれの法定項目を一部他方に委託する選択肢がある点も押さえておきたいところです。
例)
- 禁煙サポート事業の事業実施とデータ分析は保険者が担当、事業主は参加しやすい環境の整備(就業時間の調整、トップダウンでのメッセージ発信など)を担当
- 特定健診・特定保健指導を保険者が事業主に委託し、事業主が健診とその後のフォロー、指導を一貫して担当
注意すべき個人情報の取り扱いと必要な手続き
データ活用が不可欠となるコラボヘルスの推進においては、個人情報の取り扱いに十分な注意が必要です。
まず、レセプト情報、健診・検診情報は要配慮個人情報かつプライバシー情報であることから、個人が特定されない集計データでの活用が基本です。また、保険者と事業主それぞれが保有する個人情報を共有する場合は、「第三者提供」についてあらかじめ本人の同意を得るか、「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」で定められた
共同利用の手続きが必要になります。共同利用の手続きでは、以下5つの項目を事前に本人へ通知するか、本人が容易に知り得る状態にしておく必要があります。
- 共同利用をする旨
- 共同利用される個人データの項目
- 共同利用者の範囲
- 利用する者の利用目的
- 当該個人データの管理について責任を有する者の氏名または名称
そのほか、保険者-事業主間における情報の管理や受け渡し方法などのルールを覚書などで定めておくことが推奨されます。健康保険組合連合会イントラネットで閲覧できる覚書例の活用も有効です。
おわりに
保健事業を拡充する必要性は認識しているが、予算や人材などのリソースが厳しい──そうした多くの保険者が抱える課題に対する有効な解決策のひとつが、コラボヘルスの推進です。
これからコラボヘルスを推進していこうという保険者はもちろん、すでにコラボヘルスに着手している保険者も、公的なガイドラインを参照しつつ、事業主との連携のポイントや注意点を押さえながら取り組んでいきましょう。
(参考資料)
データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン
健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針
データヘルス計画作成の手引き
事業場における労働者の健康保持増進のための指針
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)