知っておきたい「セルフメディケーション」の 基本税制から保健事業の施策例まで
セルフメディケーションとは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調を自分で手当てする」ことです(WHO定義)。一人ひとりのヘルスリテラシー向上と疾病予防につながるのはもちろん、医療費適正化にも寄与する取り組みとして、昨今ますます注目を集めています。
本記事では保険者として押さえておきたいセルフメディケーションの基礎知識や、保健事業としての取り組み方について解説します。
目次[非表示]
- 1.セルフメディケーションとは
- 2.節税につながる「セルフメディケーション税制」
- 3.スイッチOTC医薬品とは
- 4.保健事業によるセルフメディケーションの推進例
- 4.1.広報・啓発
- 4.2.レセプトデータを活用した個別通知
- 4.3.薬剤師の相談窓口
- 4.4.加入者向けポイントインセンティブプログラム
- 5.おわりに
セルフメディケーションとは
セルフメディケーションの具体的な実践方法には以下があります。薬局やドラッグストアで処方箋なしに購入できる「OTC医薬品」の活用が代表例ですが、健診の受診や生活習慣の改善、予防接種などもセルフメディケーションのひとつです。
<セルフメディケーションの実践方法例>
健康状態の把握 |
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生活習慣の改善 |
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予防接種 |
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市販薬(OTC医薬品)の活用 |
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*1 予防接種法に基づき、市区町村が主体となって実施する予防接種。四種混合ワクチン、BCGワクチンなど、主に乳幼児期に接種します。
本人のメリットに加え医療費削減効果も
こうしたセルフメディケーションのメリットは、医療機関にかかる時間や手間を減らせることだけではありません。セルフメディケーションの実践である日々の健康管理や生活習慣の改善、ヘルスリテラシーの向上は、生涯にわたる健康の維持・増進につながります。加えて近年では後述する「セルフメディケーション税制」が開始され、健診の受診やOTC医薬品の活用によって節税効果も得られるようになっています。
さらに社会的な観点でも、セルフメディケーションは国全体の医療費適正化に貢献するとして注目されています。研究によると、医師に処方された医薬品をOTC医薬品に置き換えた場合の医療費削減効果は約3,210億円と推計*2。また国民医療費の約3割を占める生活習慣病も、セルフメディケーションにより予防(重症化予防)できると考えられます。
けんぽれん[健康保険組合連合会]Webサイト「第7回 セルフメディケーションのすすめ」より抜粋
国もセルフメディケーションを積極的に推進しており、セルフメディケーション税制もその一環として整備された経緯があります。
*2 厚生労働行政推進調査事業費補助金 厚生労働科学特別研究事業「セルフメディケーション税制による医療適正化効果についての研究」令和3年度 総括研究報告
節税につながる「セルフメディケーション税制」
セルフメディケーション税制は2017年1月にスタート。健康維持・疾病予防に取り組む個人が、世帯合計で年間12,000円を超える対象医薬品を購入した場合に、超えた金額について総所得金額から控除を受けられる制度です(上限88,000円)。
セルフメディケーション税制の適用を受けるためには、確定申告時に以下の書類を提出しなければなりません*3。
<セルフメディケーション税制適用に必要な書類>
- 確定申告書(セルフメディケーション税制を適用して計算したもの)
- 対象となる医薬品の領収書
- 「健康の保持増進及び疾病の予防に関する一定の取り組み」を行ったことを示す書類
*3 なお、確定申告に当たっては従来の医療費控除とセルフメディケーション税制の併用はできず、どちらか一方を選択して申告する必要があります。
スイッチOTC医薬品とは
スイッチOTC医薬品とは、もともと医師の処方があった場合のみ使用できた医薬品のうち、規制緩和によってOTC医薬品となったものをいいます。いずれも長年使用されており、かつ比較的副作用が少なく安全性が高いものがスイッチOTC医薬品として厚生労働省の承認を受けています。
スイッチOTC医薬品に含まれる医薬品は、風邪薬や胃腸薬、皮膚炎用の軟膏、アレルギー症状用の点鼻薬、関節痛に使う貼付薬などさまざま。これらのうち、セルフメディケーション税制の対象となっているものは、購入時のレシート表記やパッケージに記載されている日本一般用医薬品連合会による共通識別マークで確認できます*4。
*4 すべてのスイッチOTC医薬品がセルフメディケーション税制の対象となっているわけではありません。またスイッチOTC医薬品以外でもセルフメディケーション税制の対象となっている医薬品があります。
適用を受けるための「一定の取り組み」とは
セルフメディケーション税制の対象となるためには「健康の保持増進及び疾病の予防に関する一定の取り組み」を行っていることが条件です。適用を受ける際には、これらの取り組みを証明する書類を提出する必要があります。
適用条件となる取り組み
- 事業主による定期健診
- 特定健診、特定保健指導
- 保険者や市区町村による各種健診、検診(人間ドック、がん検診など)
- 予防接種(定期接種、インフルエンザワクチンの予防接種など)
「一定の取り組み」を証明する書類の例
- 健診結果(定期健診、特定健診)
- がん検診の領収証
- 予防接種済証
保健事業によるセルフメディケーションの推進例
保険者としても加入者の健康維持・増進、そして医療費の適正化に向け、セルフメディケーション推進へ積極的に取り組みたいところです。保健事業としての主な取り組み方法には以下があります。
広報・啓発
パンフレットや掲示物、社内ポータルサイト上のコンテンツ、セミナーなどを通じて、セルフメディケーションやセルフメディケーション税制の周知を図ります。併せて、定期健診、特定健診・特定保健指導、各種予防接種など、セリフメディケーション税制の対象となるための「一定の取り組み」を促すのも効果的です。
レセプトデータを活用した個別通知
レセプトデータをもとにスイッチOTCが活用できると考えられる加入者を抽出して、個別にアナウンスする取り組みです。活用できるスイッチOTC医薬品を紹介したり、セルフメディケーションによって医療費負担をどれだけ軽減できるかの試算を提示したりして、加入者の行動変容を促します。
薬剤師の相談窓口
医師から処方された薬の服用やスイッチOTC医薬品の活用について、薬剤師に相談できる窓口を設置する取り組みです。症状を薬剤師に伝えることで、すぐに受診したほうがいいのか、最適なOTCを選択して改善できるのか等、相談できる窓口を設置。薬剤師を活用することで、加入者に正確な知識を身につけてもらうことができます。常設、または期間限定で窓口(対面、メール、チャットアプリなど)を用意したり、健診イベント時に相談ブースを設けたりする方法が考えられます。
加入者向けポイントインセンティブプログラム
加入者の健康につながる活動にポイントを付与し、貯めたポイントを健康にまつわるグッズなどと交換できるようにするポイントインセンティブプログラムも、セルフメディケーション促進につながります。ポイントの対象とする活動は、ウォーキングや禁煙などの生活習慣改善、健診の受診、予防接種、健康コラムの閲覧など。さらに先進的な取り組みとして、加入者がスイッチOTC医薬品を購入できるECサイトを設置し、購入時に同サイトで使用できるポイントを付与している事例もあります*5。
*5 三菱商事健康保険組合「医療費適正化に繋がるセルフメディケーション推進事業」
おわりに
医療機関にかかる負担の軽減、医療費控除による節税効果など、セルフメディケーションは加入者にとって明確なメリットが多く、保険者として訴求しやすい取り組みのひとつだといえます。広報・啓発はもちろん、昨今ではレセプトデータを活用した個別通知など、より実効性の高いアプローチも可能です。特に自組合にとって優先順位が高い場合は、一歩踏み込んだ施策を検討してみてはいかがでしょうか。
(参考情報)
第7回 セルフメディケーションのすすめ|健康保険の基礎知識|知って得する!_健康保険|けんぽれん[健康保険組合連合会]
スイッチOTCをご存じですか? _ 都道府県支部 _ 全国健康保険協会
厚生労働省「セルフメディケーション税制に関する Q&A」(令和4年2月9日現在)
セルフメディケーション税制とは|令和4年分 確定申告特集(本番編)
厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)総合・分担 研究報告書(令和 3 年度)「セルフメディケーション税制による医療費適正化効果に関する研究」