医療費分析、正しくできてますか?理事会・組合向けレポートも作れる分析方法を基礎から解説
医療費が増加している要因がなにかを把握するための 医療費の分析結果は、保健事業の企画に当たってもっとも重要な根拠のひとつです。保険者が持つ複雑かつ多岐にわたるデータから正しく医療費増加の要因を突き止めるためには、適切な手順を踏む必要があります。
今回は、理事会や組合会の資料とするレポートの作成を想定した、医療費分析の基本的な流れを解説します。
目次[非表示]
- 1.医療費分析で意識したい基本の考え方
- 1.1.01 分析の目的を明確にする
- 1.2.02 仮説を立てて検証する
- 1.3.03 保健事業で対策できる課題を深掘りする
- 1.4.04 数値や傾向の意味を考える
- 2.【ケーススタディ】医療費の増加要因を分析する流れ
- 2.1.STEP1 医療費を構成要素で分解する
- 2.2.STEP2 増加要因の仮説を深掘りする
- 2.3.01 被保険者・被扶養者別で医療費の推移を分析
- 2.4.02 レセプト種別単位で医療費の変化を把握
- 2.5.03 個人別年間医療費を階層化して分析・検証
- 2.6.04 疾病別の医療費を把握する
- 3.分析後の対策の考え方~リスクをもとに事業の優先順位付けを
- 3.1.例1:生活習慣病のリスク分布と対策の方向性を把握(健康課題マップ)
- 3.2.例2:生活習慣病の患者数推移から対策を検討
- 3.3.例3:腎機能リスクを可視化(≒ CKDステージマップ)
- 3.4.例4:歯科医療費対策
- 4.おわりに
- 5.らくらく健助についてはこちら
医療費分析で意識したい基本の考え方
医療費の増減にはさまざまな要因が絡むため、闇雲に分析しても意図した分析結果にはなかなかたどり着けません。分析手順全体を通じて、特に次の4点を意識しましょう。
01 分析の目的を明確にする
医療費の増減要因の把握なのか、特定の疾患の医療費推移を把握したいのか、事業所別の傾向を把握したいのかなど、分析の目的によってアプローチは変わってきます。
02 仮説を立てて検証する
加入者数、受診日数、一人当たり医療費、年齢・性別、レセプト種別といった項目から変化の全体像を正しく把握した上で、仮説を立ててから深堀りします。
03 保健事業で対策できる課題を深掘りする
分析結果を保健事業につなげられるよう、保険者による予防事業や事業主の職場環境改善などの範囲で対策できる課題に絞って深掘りします。
04 数値や傾向の意味を考える
【ケーススタディ】医療費の増加要因を分析する流れ
医療費分析の手順は大きく2つのステップに分かれます。
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最初から疾病別の分析を行うのではなく、変化の大きな項目に当たりを付けて仮説を立て、段階に分けて医療費の増加要因を絞り込むのがポイントです。
以降では総加入者数22,000人の保険者のケースをもとに、具体的な流れを見ていきましょう。
STEP1 医療費を構成要素で分解する
2021年度から 2022年度にかけて医療費が2.8億円増加した要因を探ります。
まず医療費を構成要素である「人数」「日数」「単価」で分解し、増減要因の大まかな仮説を立てます。
今回のケースでは上図のように「患者一人当たり医療費の増加」が主な要因であるとわかりました。ここから「高額医療費の加入者増加が医療費増加の要因ではないか」という仮説を立てられます。
STEP2 増加要因の仮説を深掘りする
仮説をもとにさらに分析を進める前に、加入者構成を改めて把握します。このケースでは、生活習慣病や悪性腫瘍などのリスクが高まる40代後半~50代がボリュームゾーンとなっており、加入者構成の経年変化*はありませんでした。
この前提を踏まえ、大きな視点から小さな視点へと深掘りしていきます。
*例えば、新たな事業所編入などによって加入者構成が大幅に変わっている場合は、医療費変動の要因になっている可能性があります。
01 被保険者・被扶養者別で医療費の推移を分析
まず被保険者・被扶養者別の医療費の推移を年齢階層別、男女別に整理します。下図のようにグラフ化して可視化するとよいでしょう。
このケースでは女性の被保険者・被扶養者が医療費を押し上げていることがわかりました。併せて、年代では50代の医療費が多く、また60代の医療費が前年度比で大きく増加している実態も見て取れます。
02 レセプト種別単位で医療費の変化を把握
どのレセプト種別(歯科、調剤、通院、入院(DPC含む))が医療費の増加に寄与しているのかを分析します。
今回のケースでは増加率では入院レセプトの10%増、実数では通院レセプトの1億2,000万円増が目立ちます。この結果から、特に通院レセプトが医療費増加の要因になっていると仮説を立てられます。
03 個人別年間医療費を階層化して分析・検証
医療費増加の要因が少額患者と高額患者のどちらにあるのかを検証するため、年間1人当たりの医療費をもとに加入者を階層化して分類します。
このケースでは、年間医療費10万円〜50万円未満の層と400万円〜500万円未満の層が人数、医療費ともに増えていると判明。STEP1で導き出した「高額医療費の加入者増加が医療費増加の要因ではないか」という仮説が正しかったと検証されました。
04 疾病別の医療費を把握する
03の分析結果を受け、医療費を押し上げている階層の加入者がどのような疾病を持っているのかを掘り下げるため、総医療費に対する疾病単位の構成比を階層ごとに集計します。
今回のケースでは、年間医療費10〜50万円の層では消化器系、呼吸器系疾患、400万〜500万円の層では循環器系、内分泌系の医療費割合が大きいことがわかり、医療費増加の要因を疾病レベルで特定できました。
分析後の対策の考え方~リスクをもとに事業の優先順位付けを
分析結果をもとに保健事業での対策を考える際は、さらにリスクを分析して優先的に取り組む事業を見極めましょう。具体的な方法として4つの例を紹介します。
例1:生活習慣病のリスク分布と対策の方向性を把握(健康課題マップ)
JMDCが提供する「健康課題マップ」を活用して加入者を健康状態・生活習慣病における通院状況別に分類し、「期待すべき変化」欄でそれぞれに対する対策の方向性を確認します。特に、治療が必要な健康状態であるにもかかわらず通院していない「治療放置群」を、通院によって合併症に至る前段階にとどめられている「生活習慣病群」にどの程度移動させなければならないかを把握できます。
例2:生活習慣病の患者数推移から対策を検討
一般的な生活習慣病患者(合併症なし)と重症患者(合併症あり)の患者数の推移を、外来・入院に分けてグラフで可視化し、対策を考えます。いずれも入院患者を増やさない対策が大切です。
例3:腎機能リスクを可視化(≒ CKDステージマップ)
日本腎臓学会のガイドラインに基づいた CKDステージマップを活用して腎疾患のリスクを見極める方法です。特にクロス集計表の右下にある高リスク群(赤)で未受診の加入者には一人ひとりにアプローチし、腎臓内科など専門科への受診を促す必要があると考えられます。
例4:歯科医療費対策
歯科レセプトをもとに歯科検診、歯科の受診勧奨の優先順位を見極めます。例えば上図の事例では、ある年度の未受診者のうち、3年連続で歯科を受診してない加入者が6割以上を占めており、連続して受診をしていない人へのアプローチの優先順位が高いと考えられます。
おわりに
医療費分析では、まず全体を俯瞰した上で集計データの構成要素を一つひとつ紐解き、段階的に仮説を立てて検証していきましょう。これによって課題が正しく可視化され、適切な打ち手を検討できるようになります。
JMDCの分析ツール「らくらく健助」もこのような医療費分析に対応しています。理事会や組合会に向けた医療費分析レポートをワンクリックで作成できるなど便利な機能も多数搭載していますので、ご興味のある方はぜひお気軽にご相談ください。