先天性疾患とは【保険者が知っておきたい疾病】
目次[非表示]
- 1.概要
- 2.医療費・社会的な影響
- 3.保健事業による対策の考え方
- 4.まとめ
概要
先天性疾患(先天異常)とは、生まれつき体や内臓のつくりや機能が通常と異なる疾患の総称です。成長にほぼ影響しない軽度のものや早期治療が可能なものから、現時点では治療が困難なものまで、さまざまな疾患が含まれます。
なんらかの先天性疾患を持って生まれる新生児は全体の3〜5%と考えられています。また複数の臓器に先天性疾患が見られる場合は「先天異常症候群」と呼ばれます。
「2021年度外表奇形等統調査結果」(横浜市立大学先天異常モニタリングセンター クリアリングハウス国際モニタリングセンター日本支部)より抜粋
国内で発生数が多い先天性疾患は上図の通りです(クリアリングハウス国際モニタリングセンター日本支部調べ)。
「心室中隔欠損」「動脈管開存」「ファロー四徴」など循環器系に問題のある疾患が多数見受けられるほか、耳や口(口唇、口蓋)、尿道、手指、頭などの形に異常が見られる疾患も少なくありません。
またダウン症候群と呼ばれる21トリソミーや18トリソミーなど、その番号の染色体の本数が多いために生じる疾患も上位に挙がっています。症状は該当する染色体によっても異なりますが、例えばダウン症では発達の遅れのほか、心臓や消化器系の疾患、甲状腺機能低下症、眼の疾患、難聴などを合併する場合があることが知られています。
検査
先天性疾患は出生前(母体妊娠中)、出生後のいずれかの検査で判明します。
妊娠中の出生前検査には、体や内臓のつくり、動きを調べる胎児超音波検査(一般の妊婦健診とは異なる)と、染色体異常を調べる検査があります。さらに染色体異常の検査は診断が確定する「確定的検査」と、その前段階として行われる「非確定的検査」に分けられます(下図)。確定的検査は検査方法上、流産のリスクがあるため、まずは非確定検査を行って確定検査を受けるかどうかを判断する場合があります。
<出生前診断(染色体異常の検査)> ■非確定検査 ● NIPT(非侵襲性出生前遺伝学的検査):妊娠9~10週以降に行う母体の血液検査 ● 母体血清マーカー検査:妊娠15~20週で行う母体の血液検査 ● 超音波マーカーの検査:超音波検査により、染色体異常がある場合に変化が出やすい箇所(首の後ろのむくみなど)を計測 ● コンバインド検査:超音波マーカーの検査と母体の血液検査を組み合わせた検査 |
出生後は身体検査のほか、先天性代謝異常症など20疾患の可能性を検査する血液検査「新生児マス・スクリーニング検査」が行われます。
原因・リスク因子
先天性疾患の約半数は単一的な原因で説明ができず、なんらかの複数因子が複合的に関係して生じていると考えられています。厚生労働省の研究班によると、染色体異常を持つ疾患が約5〜10%、遺伝子変異がある疾患が約15〜20%、環境要因によると考えられる疾患が約10%を占めるとされています*1 。
このうち環境要因については放射線への曝露や薬剤、 アルコール、 栄養不良、母親の感染症などが含まれます。例えば、妊娠中の葉酸(葉酸塩)不足により、胎児の神経管閉鎖不全や口唇裂などが発生するリスクが高まることがわかっています。また感染症については、水疱瘡やヘルペスウイルス、風疹、梅毒などが先天性疾患を引き起こすリスクの高いものとして知られています。
そのほか、ダウン症や18トリソミーといった染色体の異常は妊婦の年齢上昇に伴って発生率が上がるという研究結果もあります*2。
*1 「先天異常症候群(指定難病310」 難病情報センターWebサイト
*2 Morris JK et al; J Med Screen 9:2-6,2002; Morris JK et al; Prenet Diagn 25:275-278,2005; Appendix in Savva GM et al; Prenat Diagn 30:57-64,2010 (「お腹の赤ちゃんが病気になる理由」 出生前検査認証制度等運営委員会Webサイト掲載)
影響
国内でも先天性疾患により死亡してしまう新生児、乳児は未だ多く、1歳未満の乳児の死因の3割以上を先天性疾患が占めています*3。また治療はできても根治が難しく、生涯にわたる治療が必要になったり、長期的な障がいが残ったりするケースも珍しくありません。
また先天性心疾患などでは小児期に手術を受けた場合でも、長期間経過したあと、あるいは加齢に伴って合併症が引き起こされる場合もあります。
*3 厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
治療
先天性疾患そのものや合併症の症状に合わせて、手術療法や薬剤療法が行われます。先天性心疾患など生涯医療が必要な場合は、小児に対する医療から成人に対する医療へのスムーズな移行に向けた支援も重要になります。
医療費・社会的な影響
医療費支出における先天性疾患の構成割合は他の疾病に比べるとそれほど大きくなく、 2022(令和4)年度健保組合医療費では0.7%となっています*4。ただし、治療が長期にわたることや、公的な難病・小児慢性特定疾病の医療費助成制度の運営、本人や家族の生涯にわたる負担を鑑みると、社会的負担は決して小さくありません。また生活習慣病などと比べて予防や早期発見が難しく、突然の医療費上昇につながる場合がある点にも留意が必要です。
*4 健康保険組合連合会政策部 調査分析グループ「令和4年度 健保組合医療費の動向に関する調査」
保健事業による対策の考え方
先天性疾患は原因不明の疾患や予防が困難な要因も多い一方、環境リスクに対しては保健事業によってある程度の対策が可能です。特に扶養率の高い保険者では、先天性疾患を有する被扶養者数も多くなると考えられるため、女性の健康対策の一環として意識しておくとよいでしょう。
施策例1:プレコンセプションケア(妊娠前)
荒田尚子「日本のプレコンセプションケアを考える 内科の立場から」(パネルディスカッション「日本のプレコンセプションケアを考える」資料)
プレコンセプションケアとは、若い女性またはカップルが将来の妊娠や体の変化に備えて生活習慣の改善やヘルスリテラシー向上を図るヘルスケアのことです。中でも感染症予防(ワクチン接種など)や栄養改善の促進は、将来生まれてくる子どもの先天性疾患リスク低減にもつながります。具体的なアプローチ方法としては、婦人科検診の受診環境整備、相談窓口の設置、女性の健康課題に関するセミナーや研修の実施などが考えられます。
参考:プレコンセプションケアとは|保険者として取り組む重要性(JMDC Stories)
施策例2:妊婦・乳幼児の保健指導補助(妊娠中、出生後)
妊婦や乳幼児が医療機関で自費による保健指導を受けた場合、自己負担分を保険者が補助する施策です。妊婦健診については自治体による健診補助券、乳幼児健診については無料で受けられる自治体の定期健診を補完する位置づけになります。
まとめ
先天性疾患とは、うまれつき体や内臓のつくりや機能に異常がある疾患の総称で、新生児全体の3〜5%に見られる。
染色体や遺伝子の変化など対策できない要因も多いが、 アルコールや栄養不良、母親の感染症などの環境要因は対策が可能。
根治が難しく「生涯医療」が必要になる場合があり、本人や家族の負担、医療費へのインパクトは少なくない。また予防や早期発見が難しく、突然医療費の上昇が起こる場合がある。
保健事業による対策としては、環境リスクを低減するためのプレコンセプションケアや妊婦、乳幼児の保健指導補助などが考えられる。
(参考情報)
お腹の赤ちゃんの病気とは _ 出生前検査認証制度等運営委員会
お腹の赤ちゃんが病気になる理由 _ 出生前検査認証制度等運営委員会
先天異常症候群(指定難病310) – 難病情報センター
「日本のプレコンセプションケアを考える」パネルディスカッション 資料
周産期遺伝外来を受診する方へ (国立成育医療研究センター)
健康保険組合連合会政策部 調査分析グループ「令和4年度 健保組合医療費の動向に関する調査」
新生児マススクリーニング オリジナルサイト _ 国立成育医療研究センター
移行医療について考える _ 先天性心疾患情報ポータル(「先天性心疾患を主体とする小児期発症の心血管難治性疾患の生涯にわたるQOL改善のための診療体制の構築と医療水準の向上に向けた総合的研究」研究班)