後期高齢者支援金と前期高齢者納付金の違いは?制度の基本をわかりやすく解説
後期高齢者支援金、前期高齢者納付金は、いずれも保険者が負担する拠出金です。保険者の財政が厳しさを増す要因としてよく取り上げられますが、具体的にどのような仕組みになっているのでしょうか。両者の違いや金額の決まり方など、押さえておきたい基本知識を詳しく解説します。
※現在、医療保険制度改革の一環として、後期高齢者支援金や前期高齢者納付金の在り方の見直しが検討されていますが、本記事では2024年1月現在の現行制度について解説します。
目次[非表示]
- 1.高齢者医療制度(2008年~)の仕組みと課題
- 2.後期高齢者支援金とは
- 2.1.後期高齢者の負担率
- 2.2.各保険者の負担額の決まり方
- 2.3.後期高齢者支援金を減らすには
- 3.前期高齢者納付金とは
- 3.1.各保険者の納付額の決まり方
- 3.2.前期高齢者納付金を減らすには
- 4.おわりに
高齢者医療制度(2008年~)の仕組みと課題
後期高齢者支援金、前期高齢者納付金は2008年度以降、高齢者医療制度*1 の一環として運用されている仕組みです。日本の医療保険制度では、所得が高く支払う保険料が多いものの医療費は低い現役世代が被用者保険に、退職して所得が下がっており保険料は少ない一方で医療費は高い傾向にある高齢者が国民健康保険(以下、国保)に偏って加入しています。この構造的な課題を解決するために整えられたのが、これら拠出金の仕組みです。
ただし課題として、こうした後期高齢者支援金、前期高齢者納付金の制度が保険者の財政を圧迫している現状もあります。現在、健康保険組合(以下、健保組合)*2 や協会けんぽでは支出の約4割がこれらの拠出金に充てられています。その結果、中には赤字を計上し、積立金を取り崩して対応せざるを得ない保険者も少なくありません。健保連の報告では、2022(令和4)年度予算で69.5%もの健保組合が赤字になっているとされています。
*1 75歳以上の高齢者を対象にした「老人保健制度」と60歳以上75歳未満の退職者を対象とした「退職者医療制度」を再編成し、現行の「高齢者医療制度」が始まりました。このとき老人保健法が全面改正され、高齢者医療確保法に名称が変更されています。
*2 特に健保組合は、2015年から段階的に行われた後期高齢者支援金の計算方法の変更により、負担額がより大きくなった経緯があります。健保連によると、後述する現行の計算方法(総報酬割)が全面導入された2017年度には、健保組合全体の拠出金額が前年度比で9.1%増加したと報告されています。
後期高齢者支援金とは
厚生労働省 保険局「高齢者の保険料賦課限度額や高齢者医療制度への支援金の在り方」より抜粋
後期高齢者支援金は、75歳以上(一定の障害がある場合は65歳以上)を対象とした後期高齢者医療制度*3の財源のうち、保険者が負担する部分のことを指します。
窓口負担を除く財源の内訳は、公費約5割、後期高齢者支援金約4割、後期高齢者の保険料約1割です。支援金は毎月5日を期限に支払基金が保険者から徴収します。
*3 後期高齢者医療制度の運営主体は都道府県ごとに全市町村が加入する「後期高齢者医療広域連合」で、被用者保険とも国保とも異なる保険者です。
後期高齢者の負担率
後期高齢者の負担割合は国が定める「後期高齢者負担率」によって決まります。2008年度当初は10%でしたが、現役世代の負担が人口の減少に伴って増えすぎないよう、2年ごとに国が計算して決定しています*4。2022(令和4)〜2023(令和5)年度の後期高齢者負担率は11.72%です。
*4 現役世代の人口の減少によって増加した負担分を、高齢者と現役世代で折半する計算方法となっています。
各保険者の負担額の決まり方
各保険者が拠出する支援金の額は、後期高齢者医療制度の運営にかかる費用(医療費など)から公費負担分と保険料負担を差し引いた金額を、各保険者で按分する形で計算されます。
厚生労働省保険局「医療保険制度改革について(参考資料) (被用者保険者間の格差是正)」より抜粋
具体的には、まず国保と被用者保険の間で加入者数に応じて全体の負担を按分。その後、
被用者保険分の負担を各保険者が総報酬額に応じて分け合います。さらにこの金額に「後期高齢者支援金の加算・減算制度」による加算率・減算率をかけ、保険者それぞれの支援金額を算定します。
加算率・減算率はそれぞれ最大10%で、各保険者が特定健診・保健指導を始めとする予防・健康づくりや医療費適正化にどれだけ取り組んでいるかによって変わります。
厚生労働省 保険局 保険課「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について」より抜粋
このような算定方法であるため、健保組合などの被用者保険では加入者が多いほど、また加入者の報酬が高いほど後期高齢者支援金の拠出額が多くなる傾向にあります。
後期高齢者支援金を減らすには
負担額を減らすために保険者が対策できるのは、算定式の「加算率・減算率」の部分です。まずは加算対象にならないため、特定健診・保健指導の実施率を向上させることが重要です。また総合評価項目の大項目2〜6でそれぞれ重点項目を1つ以上達成した場合も、加算対象から除外されます。
厚生労働省 保険局 保険課「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について」より抜粋
さらに減算対象になるためには、総合評価指標の合計点数が上位20%かつ総合評価指標の必須項目4つをすべて満たさなければなりません。総合評価指標の項目は下記の通り多岐にわたります。各保険者の課題に即して費用対効果を考えて優先順位を付けながらも、多面的に取り組みたいところです。
<総合評価指標の概略>
大項目 |
必須項目 |
1:特定健診・特定保健指導の実施(法定の義務) |
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2:要医療の者への受診勧奨、糖尿病等の重症化予防 |
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3:予防健康づくりの体制整備 |
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4:後発医薬品の使用促進、加入者の適正服薬を促す取組の実施状況 |
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5:がん検診・歯科健診等の実施状況 |
ー |
6:加入者に向けた予防・健康づくりの働きかけ |
ー |
厚生労働省 保険局 保険課「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について」より抜粋
前期高齢者納付金とは
厚生労働省 保険局「高齢者の保険料賦課限度額や高齢者医療制度への支援金の在り方」より
前期高齢者納付金は、65歳〜74歳(前期高齢者)の医療費について、被用者保険と国保の間で負担を調整するための制度です。
図:前期高齢者納付金のイメージ
厚生労働省 保険局「医療保険制度改革について(参考資料)(被用者保険者間の格差是正)」より抜粋
上のイメージ図の通り、前期高齢者加入率が全国平均より低い保険者は、仮に加入率が全国平均だった場合の前期高齢者医療費との差額分(黄色部分)を納付し(毎月5日を期限に支払基金が徴収)、加入率が全国平均より高い保険者は全国平均だった場合との差額分(青色部分)の交付を受けます(毎月15日)。
各保険者の納付額の決まり方
具体的な算定式は以下の通りです。
※前期高齢者の医療費 = 前期高齢者への給付費 + 前期高齢者が負担する後期高齢者支援金 |
例えば、上記イメージ図の健保組合Aについて、
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だった場合、前期高齢者納付金の計算式は以下のようになります。
※4億円(白部分) × 15.11/3.43 (加入者調整率)で、図の黄色部分 + 白部分の金額が算出されます。この金額から白部分の4億円を引くことで黄色部分(納付金額)を計算できます。 |
前期高齢者納付金を減らすには
納付金の算定式で保険者が対策できるのは「前期高齢者の医療費」部分です。医療費適正化に向け、特に前期高齢者で課題になりやすい以下の分野への取り組みが重要だと考えられます。
<前期高齢者の医療費適正化につながる主な対策>
課題、項目 |
施策例 |
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生活習慣病対策 |
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適切な医療のかかり方 |
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服薬の適正化 |
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おわりに
後期高齢者支援金、前期高齢者納付金は日本の高齢者医療を支える重要な拠出金ではありますが、保険者の財政を圧迫しているのも実情です。それぞれの算定式を見ると、保険者自身による積極的な予防・健康づくりの取り組みが拠出金負担の軽減につながることがわかります。
両者の違いを理解した上で、後期高齢者支援金の加算・減算制度における評価項目を視野に入れた施策、前期高齢者をターゲットとした施策を改めて検討してみましょう。
(参考資料)
厚生労働省 保険局「医療保険制度改革について 高齢者の保険料賦課限度額や高齢者医療制度への支援金の在り方、被用者保険者間の格差是正の方策等」
健康保険組合連合会 政策部 調査分析グループ「令和4年度(2022 年度)健保組合予算編成状況について―令和4年度予算早期集計結果報告―」
第2章 第3節 2 (5)高齢者医療制度の改革|平成20年版高齢社会白書(全体版) - 内閣府
健康保険組合連合会「平成 29 年度健保組合決算見込の概要」
厚生労働省 保険局「高齢者の保険料賦課限度額や高齢者医療制度への支援金の在り方」
厚生労働省保険局「医療保険制度改革について(参考資料) (被用者保険者間の格差是正)」
厚生労働省 保険局 保険課「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について」
被用者保険におけるデータ分析に基づく保健事業事例集(データヘルス事例集)|厚生労働省