若年層の健康対策に!40歳未満の事業主健診データ活用の手順とポイント
近年の法改正により、保険者は特定健診の対象者に加えて、対象外である40歳未満の従業員の事業主健診データも活用できるようになりました。データをもとに、若い世代に対してより効果的にアプローチできれば、長期的な特定保健指導対象者の減少にもつなげられます。
事業主からデータ提供を受けるためには具体的にどのような手続きが必要なのか、気になる個人情報の取り扱いも含めて解説します。
目次[非表示]
2022年1月~保険者による事業主健診データ活用が拡大
保険者は特定健診・特定保健指導の実施に当たり、事業主が労働安全衛生法などに基づいて行う健診のデータの提供を受け、活用することができます(高齢者医療確保法)。この法的なデータ提供の範囲が2022年1月施行の法改正(健康保険法など)で拡大され、保険者は特定健診の対象とならない40歳未満の従業員の健診データについても、事業主に提供を求められるようになりました。これにより、保険者におけるデータヘルス、コラボヘルスが一層推進され、より効率的かつ効果的に保健事業が行えるようになると期待されています。また加入者がマイナポータルなどで事業主健診結果をいつでも簡単に閲覧できるようになり、加入者自身の予防・健康づくりも促進されると考えられます。
厚生労働省によると、法改正後の時点で7割の健康保険組合が40歳未満の事業主健診データを取得(2022年11月時点)。データは受診勧奨や保健指導のほか、さまざまな保健事業に活用されていると報告されています。
40歳未満の事業主健診データ活用に取り組むメリット
保険者が40歳未満の事業主健診データを活用し、若年層の健康づくりに取り組む直接的なメリットには、主に以下の2つがあります。
メリット1:特定保健指導対象者の抑制など長期的な生活習慣病予防
生活習慣病はその名の通り、生活習慣の積み重ねによって生じるため、特定健診・特定保健指導の対象年齢となってからの対処では遅い場合も少なくありません。事業主健診データを活用し、加入者一人ひとりの健康状態を40歳になる前から経年的に把握できれば、より早期のアプローチが可能になります。将来的な重症化予防はもちろん、若年層が40歳以上になった段階で特定保健指導対象者となることも未然に防止できます。実際に厚生労働省の資料では、40歳未満の事業主健診データを活用して保健事業を強化し、加入者の生活習慣改善や、メタボリックシンドロームに関わる数値の改善などの成果を上げている保険者の例も報告されています。
例1)三菱電機健康保険組合:BMI、腹囲などの数値改善
(厚生労働省「40歳未満の事業主健診情報の活用事例」より抜粋)
例2)関東ITソフトウエア健康保険組合:運動の習慣化(生活習慣の改善)
(厚生労働省「40歳未満の事業主健診情報の活用事例」より抜粋)
メリット2:後期高齢者支援金の加算・減算制度における評価
(厚生労働省「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について」より抜粋)
40歳未満の事業主健診データ活用は、第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度の評価項目にもなっています。同制度の総合評価指標のうち「PHRの体制整備」を満たすためには、「40歳未満の事業主健診データの事業主への提供依頼」を含む3つの取り組みをすべて実施していることが条件に。この「PHRの体制整備」は減算の対象となるための必須項目・重点項目となっていることからも、保険者として積極的に取り組みたいところです。
事業主健診データの提供を受ける手順と手続き
40歳未満の事業主健診データの提供を受けるためには以下の通り、事前に事業主や健診委託機関との確認、調整、手続きが必要です。なお、すでに特定健診データの作成・提供に関する取り決めがある場合は、その手順も参考にするとよいでしょう。
1.事業主、健診実施機関とスムーズなデータ提供の形を決定
まずは、どのような流れで事業主健診データを保険者に提供すればもっともスムーズかを保険者、事業主、健診実施機関で検討し、調整します。
事業主自ら保険者に健診データを提供するのは難しい場合は、健診実施機関から健診データを保険者へ直接提供できる形にできるとよいでしょう。その際の事業主と健診委託機関との契約例は、厚生労働省による「定期健康診断等及び特定健康診査等の実施に係る事業者と保険者の連携・協力事項について」の別添2で確認できます。
もし事業主と健診委託機関の間で契約時に保険者へのデータ提供に関する取り決めがなされていない場合は、保険者による手続きが必要です。
(「定期健康診断等及び特定健康診査等の実施に係る事業者と保険者の連携・協力事項について」別添2より抜粋)
前述の「定期健康診断等及び〜」の別紙3にある「健康診断結果提供依頼書」を活用して事業主から同意を得た上で、健診委託機関に保険者へのデータ提供依頼をします。また、以上のような40歳未満の事業主健診情報の提供に費用が発生する場合は、事業主と保険者での費用負担の割合*1 についても検討し、取り決めを交わしておきましょう。
*1 厚生労働省「40 歳未満の事業主健診情報の活用を通じた予防・健康づくりの推進」によると、データ提供に発生する費用については事業者または保険者(健康保険組合)が全額負担しているケースがそれぞれ約2割ずつ、事業者と保険者の両方が負担するケースが約3割、そもそも費用が負担ないケースが約3割となっています。
(「定期健康診断等及び特定健康診査等の実施に係る事業者と保険者の連携・協力事項について」別添3より抜粋)
併せて、事業主と協力し、受診者の保険者番号、被保険者記号・番号を健診実施機関へスムーズに提供できるような体制も確保しておきます。
例えば「定期健康診断等及び~」別添1にあるような問診表を活用して受診者に記入してもらうようにしたり、事業主が受診者の被保険者記号・番号等を管理している場合は、あらかじめ健診実施機関に提供しておくようにしたりする方法が考えられます。
(「定期健康診断等及び特定健康診査等の実施に係る事業者と保険者の連携・協力事項について」別添1より抜粋)
以上は事業主が定期健康診断などを実施する一般的なケースを想定したものですが、必要に応じて定期健康診断などの実施を事業主が保険者に委託したり、事業主と保険者が共同で実施したりする選択肢もあります。保険者、事業主双方にとってデータ共有しやすい形を検討することが大切です。
2.個人情報の管理、取り扱いについて取り決め
高齢者医療確保法や健康保険法などに基づいて事業主健診データを保険者に提供する場合は、個人情報保護法の第三者提供には該当しないため、本人の同意を得る必要はありません。ただし、事業主は個人情報取扱事業者として、個人情報保護法にある安全管理措置を講じなければならず、また健診データ提供を健診実施機関に委託する場合は、同機関を監督する必要があります。保険者も事業者から定期健康診断等の実施を委託されていたり、事業者と共同で定期健康診断等を実施したりする場合は「健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」などを参照に、個人情報保護へ十分に配慮しなければなりません。
事業主ー健診実施機関間での個人情報に関する取り決めは、前述した「定期健康診断等及び〜」別添2にあるように契約書に記載するとよいでしょう。保険者-事業主間での取り決めについては、保険者が健診の実施の委託を受ける場合は契約書に記載、そうでない場合は覚書や確認書などを取り交わしておきます。
また、事業主と保険者が共同で健診や事後指導を行う場合は「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」や「健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」に従った個人情報の共同利用の手続きも必要です。以下5つの項目を事前に本人へ通知するか、本人が容易に知り得る状態にしておきましょう。
- 共同利用をする旨
- 共同して利用される個人データの項目
- 共同して利用する者の範囲
- 利用する者の利用目的
- 当該個人データの管理について責任を有する者の氏名または名称、住所、法人の場合は代表者の氏名
以上の手続きに当たっては、健康保険組合連合会(健保連)イントラネットにある「健康診査及び保健指導に関するコラボヘルス推進にかかる覚書」「健康診査及び保健指導に関するコラボヘルス推進にかかる確認書」「被保険者向けの案内文例」も活用するとよいでしょう。
おわりに
40 歳未満の事業主健診データを活用した若年層対策は長期的な生活習慣病予防に直結し、将来的な医療費抑制にもつながります。後期高齢者支援金減算の必須条件になっているという点でも、ぜひ積極的に取り組みたいところです。事業主からデータ提供を受けるに当たっては、特定健診結果提供の流れをベースにしつつ、改めて事業主や健診委託機関とスムーズな連携の在り方を検討、調整するようにしましょう。
(参考情報)
厚生労働省「定期健康診断等及び特定健康診査等の実施に係る事業者と保険者の連携・協力事項について」
40 歳未満の事業主健診情報の活用促進に関する検討会「40 歳未満の事業主健診情報の活用を通じた予防・健康づくりの推進」
厚生労働省「40歳未満の事業主健診情報の活用事例」
厚生労働省「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について」
データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドライン
健康保険組合等における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス
個人情報の保護に関する法律
電子的な標準様式 第4期(2024年度~2029年度分)