プレゼンティーイズムとは?アブセンティーイズムとは?コラボヘルスでの対策方法を解説
「プレゼンティーイズム」「アブセンティーイズム」は、いずれも従業員の健康問題が原因で労働生産性が低下する状態を指します。企業の健康経営において欠かせない指標であるため、保険者も事業主とのコラボヘルス推進にあたって確実に押さえておきたい概念です。
本記事ではプレゼンティーイズムやアブセンティーイズム につながる疾患や労働損失の測定方法、コラボヘルスにおける具体的な取り組み方について詳しく解説します。
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医療費以上のコストであるプレゼンティーイズム、アブセンティーイズム
プレゼンティーイズムとは健康の問題を抱えつつも出勤し(present)仕事を行っている状態、アブセンティーイズムとは健康問題による仕事の欠勤(absent)を指します。またWHOでは、これらの状態による労働生産性の低下を表す指標としてプレゼンティーイズム、アブセンティーイズムを定義しています。
こうした定義上、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムは主に企業の健康経営において取り上げられる概念です。国内外における複数の研究調査では、従業員の健康関連コスト全体を見た場合、直接的な医療費以上にプレゼンティーイズム+アブセンティーイズムによる損失が大きい実態が指摘されています*1。したがって、健康経営においては医療費削減だけでなく、プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムの解消も視野に入れて対策することが事業の費用対効果を高めるカギになると考えられているのです。
厚生労働省保険局「データヘルス・コラボヘルスを推進するためのコラボヘルスガイドライン」より抜粋
加えて、2024年度から健康経営銘柄・健康経営優良法人ホワイト500に認定されるための必須要件として「従業員パフォーマンス指標及び測定方法の開示」が追加されました。具体的にはアブセンティーイズム、プレゼンティーイズム、ワーク・エンゲージメントのいずれかを指標として計測・開示することが求められるようになり、国内企業における注目度は一層高まっているといえるでしょう。
「はじめよう!「健康経営」 - ACTION!健康経営 ポータルサイト(健康経営優良法人認定制度)」より抜粋
*1 国内の研究では、東京大学政策ビジョン研究センター「健康経営評価指標の策定・活用事業」報告書(2015年度)や、Nagata T, Mori K, Ohtani M, et el.(2018)[Total health-related costs due to absenteeism, presenteeism,and medical and pharmaceutical expenses in Japanese employers.] など。
労働損失につながりやすい主な不調・疾患
こうした労働損失の原因について、特にアブセンティーイズムにつながりやすいものの代表例がうつ病などのメンタルヘルス不調です*2。アブセンティーイズムについては従業員が病欠、休職する際に企業側が原因を把握しやすく、比較的対策も検討しやすいといえます。一方、プレゼンティーイズムは本人にとっても企業にとっても、実態や原因が見えにくいのが難点です。国内外の複数の研究*3では、主に下表のような健康課題がプレゼンティーイズムと関連があると示されています。アブセンティーイズムと同様、メンタルヘルス不調との関連性が指摘されているほか、医療費やアブセンティーイズムには影響を与えにくい肩こり・腰痛、眼の症状(ドライアイなど)、アレルギーが含まれているのが特徴です。さらにがんや肥満などの生活習慣病や女性特有の不調も見逃せません。
表:プレゼンティーイズムに影響する不調の例
運動器の不調 |
腰痛、肩こり、関節リウマチ、頭痛 など |
メンタルヘルス不調 |
うつ、不安感、睡眠障害 など |
眼の不調 |
眼精疲労、ドライアイ など |
呼吸器・胃腸の不調 |
気管支喘息、過敏性腸症候群、逆流性食道炎など |
生活習慣病 |
がん、心臓病、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドローム、睡眠時無呼吸症候群 など |
アレルギーなど |
アレルギー性鼻炎、皮膚科疾患(乾癬) など |
女性特有の健康課題 |
子宮内膜症、月経随伴症状(PMS・月経困難症など)、更年期症状 など |
*2 株式会社日本総合研究所「働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性」(2021年)で取り上げられているGoetzel らによる研究(2004年)など
*3 経済産業省「健康経営オフィスレポート」掲載の先行研究、永田智久「疾病による生産性低下と損失の分担-アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムによる損失」、永田智久「日本の企業におけるアブセンティズム、プレゼンティズム、および医療費と医薬品費などの健康関連費用のコスト」など
プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムの測定方法
実際に各職場でプレゼンティーイズム、アブセンティーイズムによる損失がどれだけ発生しているかを測る方法は以下の通りです。
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プレゼンティーイズムによる損失(金額)=プレゼンティーイズム損失割合×総報酬年額
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総報酬年額=標準報酬月額×12カ月+標準賞与
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総報酬年額=標準報酬月額×12カ月+標準賞与
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アブセンティーイズムによる損失(金額)=アブセンティーイズムの日数×総報酬日額
プレゼンティーイズム損失割合の計測方法とアブセンティーイズム日数のカウント方法には、それぞれ複数の選択肢があります。
プレゼンティーイズムの測定方法
図:WHO/HPQのプレゼンティーイズムに関する質問項目
厚生労働省保険局「データヘルス・コラボヘルスを推進するためのコラボヘルスガイドライン」より抜粋
代表的な測定方法のひとつが、WHOがハーバード大学と共同で開発したWHO/HPQと呼ばれる方法で、厚生労働省による「データヘルス・コラボヘルスを推進するためのコラボヘルスガイドライン」でも取り上げられています。
この測定方法では3つの設問の回答をもとに損失割合を評価します。評価方法は「絶対的プレゼンティーイズム」と「相対的プレゼンティーイズム」の2種類。絶対的プレゼンティーイズムは質問3「過去のパフォーマンスの自己評価」の回答をそのまま使うもので、例えば回答が9だった場合は、プレゼンティーイズムによる損失割合は1割と評価します。一方、相対的プレゼンティーイズムでは以下の計算式を使い、同職種・業務の他者の評価をもとに自己評価を相対化して点数化します。
相対的プレゼンティーイズム=質問3の回答÷質問1の回答 |
国内企業でWHO/HPQを用いる場合、日本人の性格的気質から絶対的プレゼンティーイズムでは点数がかなり低めに出る傾向があるため、損失額を把握しようとする場合には相対的プレゼンティーイズムで評価するのが妥当であるとされています。一方、絶対的プレゼンティーイズムは健康関連リスクとの相関を分析する際などに活用できます。
なお、経済産業省による「企業の『健康経営』ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~」では下図の通り、WHO/HPQ以外の方法も紹介されています。それぞれ質問数や質問内容が異なるため、各企業で実施しやすい方法を選びましょう。
経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~」より抜粋
アブセンティーイズムの測定方法
病休や欠勤、休職だけでなく、体調不良で年次有給休暇を取ったケースまで把握するためには従業員アンケートが有効です。「昨年1年間に、自分の病気で何日仕事を休みましたか」といった質問項目を設定し、自己申告をもとにアブセンティーイズムを計測します。ただし、測定の精度がアンケートの回収率に左右されてしまう点に注意が必要です。
アンケートの実施・回収が難しい場合は、代替案として病休日数、欠勤日数、休職日数など、人事労務部門が把握している数値を活用する方法もあります。ただし、年次有給休暇を使った分はカバーされないため、過小評価になる恐れがあります。
保険者が協力できるコラボヘルスのプレゼンティーイズム、アブセンティーイズム対策
プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムはデータヘルス計画における共通の評価指標や保険者インセンティブ(後期高齢者支援金の加算・減算制度)の要件にはなっていませんが、コラボヘルスを推進する際には事業主と目線を合わせるべく、保険者もこれらの指標を意識して取り組みたいところです。具体的に保険者がプレゼンティーイズム、アブセンティーイズム対策で協力できることには以下があります。
労働損失測定のサポート
従業員アンケートの回答率・回収率を高めるために、特定健診の際にプレゼンティーイズム、アブセンティーイズムに関する質問項目も盛り込んでおくといった協力ができます。またプレゼンティーイズムの損失を金額換算する際には、保険者が持つ標準報酬データが必要です。
データから疾病や健康リスクとの関連性を分析
自社のプレゼンティーイズム、アブセンティーイズムに影響を与えている要因を分析する際には、事業主が行う定期健診やストレスチェックのデータのほか、保険者が活用できるレセプトデータや特定健診データの活用も不可欠です。レセプトデータとの掛け合わせでは労働損失につながっている疾病、特定健診データとの掛け合わせでは以下のような健康リスクと労働損失の関連性を分析できます。
<労働損失と関連する可能性のある健康リスク>
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なお、分析の結果、プレゼンティーイズムやアブセンティーイズムにつながる疾病、健康リスクと、医療費(医療費+薬剤費)の増大に関わる疾病などが異なることが判明するケースも少なくありません。その場合は自社の健康関連コストを総合的に考慮した上で取り組む健康課題の優先順位をつけ、施策を企画・立案するようにしましょう。
役割分担して施策を実施
事業主と連携、役割分担して、プレゼンティーイズムやアブセンティーイズムの解消につながる施策の実効性を高めます。
例1)メンタルヘルス、特に介護疲労・ストレスが労働損失に影響していると考えられる場合
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例2)運動習慣や活動量が労働損失に影響していると考えられる場合
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おわりに
プレゼンティーイズム、アブセンティーイズムは保険者視点での評価指標ではないものの、事業主とのコラボヘルスにおいては避けて通れない観点です。労働損失の測定から要因の分析、具体的なプレゼンティーイズム、アブセンティーイズム対策の立案・実施に至るまで、事業主へスムーズに協力できるよう、基礎的な知識を押さえておきましょう。
(参考資料)
厚生労働省保険局「データヘルス・コラボヘルスを推進するためのコラボヘルスガイドライン」
経済産業省「企業の『健康経営』ガイドブック~連携・協働による健康づくりのススメ~」
株式会社日本総合研究所「働く世代が抱える見過ごされている健康課題への対応の必要性」
はじめよう!「健康経営」 - ACTION!健康経営 ポータルサイト(健康経営優良法人認定制度)
経済産業省「健康経営オフィスレポート」
永田智久「疾病による生産性低下と損失の分担-アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムによる損失」
永田智久「日本の企業におけるアブセンティズム、プレゼンティズム、および医療費と医薬品費などの健康関連費用のコスト」
東京海上日動健康保険組合「「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化」
東大ワーキングループ 健康経営の枠組みによる健康課題の見える化