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東京大学 データヘルス研究ユニット  古井祐司特任教授「健康保険組合が医療DXで目指すことは?」セミナーレポート

健保組合に求められる「目的志向の医療DX」

「マイナ保険証を基軸とした医療DXがもたらすデータヘルスの推進」をテーマに実施した2024年9月2日開催のJMDCセミナー。第2部では「健康保険組合が医療DXで目指すことは?」と題して、東京大学 データヘルス研究ユニット  古井祐司特任教授が講演しました。「国の医療DXに乗っかるだけでなく、 健保組合自身が実現したい医療DX姿をそれぞれ考えたい」と古井先生。同講演の様子を抜粋してお届けします。
(以下、括弧内の発言は古井先生)
第1部「マイナ保険証の利用促進(資格確認書の交付等)について」のセミナーレポートはこちら


目次[非表示]

  1. 1.医療DXで実現できる健保組合の3つの未来像
    1. 1.1.例1 業務の効率化~共同事業化の可能性が拡大
    2. 1.2.例2 適用事業所への貢献~コラボヘルスの進化
    3. 1.3.例3 保健事業の標準化~データに基づくパターン化
  2. 2.目指す世界観を被保険者、事業所に周知して
  3. 3.おわりに


医療DXで実現できる健保組合の3つの未来像


医療DXの目的というと「マイナ保険証をパスポートに国民がさまざまな医療・社会保障サービスへ平等にアクセスできるようにする」「オンライン資格確認、電子処方箋の運用による社会保障の仕組み全体の業務効率化」といった、国の掲げる未来像をイメージするかもしれません。しかし「これらはあくまでナショナル・ミニマム」だと古井先生はいいます。
「医療DXの本質は、わが国が『活力のある健康活躍社会』へと進化するためのイノベーションや人材活用です。そしてそれらの主役は国ではなく、民間企業や大学、そして保険者などのステークホルダー。健保組合も国の進める社会保障基盤の整備と並行して、健保組合ならではの医療DXの姿を目指してほしいと思います」
古井先生は健保組合自身が目指せる医療DXの在り方の例として、次の3つを挙げます。


例1 業務の効率化~共同事業化の可能性が拡大


「業務効率化」と一口にいっても、医療DXによって健保組合のどの業務をどのように効率化できるかは、各組合の状況(母体企業の経営理念、業種業態、健保の人員体制、保健事業やコラボヘルスの携帯、データの利活用の方針など)によって異なります。とはいえ「ある程度パターン化もできるはず」というのが古井先生の見解です。



また古井先生は、保険者業務効率化の有効な手段のひとつである「共同事業化」も医療DXによって進めやすくなると指摘。先行事例として、11健保組合(85事業所)が共同でスマートフォンアプリを活用した保健事業を外部委託した取り組みの検証結果が紹介されました。

「保健事業の共同事業化によって健保組合、委託事業者それぞれの業務が効率化できたのはもちろん、単独の組合では難しいデータヘルスの知見・ノウハウの抽出にもつながりました」


例2 適用事業所への貢献~コラボヘルスの進化


データ活用によって「入社時から一貫した予防・健康管理サービス(コラボヘルス・パック(仮称))を従業員に提供できるようになる」と古井先生。また従業員だけでなく、退職者(転職者、定年退職者)の予防・健康管理についても他の保険者へスムーズにバトンタッチしやすくなるといいます。


「働き盛り世代は自身の健康を二の次にしがちで『健診を受けた人の7割は自分の健診結果を知らない』『40代前半がもっとも突然死の死亡率が高い』といった研究もあるほどです。これに対し、医療DXによって健診の受診状況から健診結果、必要な医療機関の受診状況、検査値のコントロール状況までモニタリングできれば、こうした突然の疾病、QOL低下をより防ぎやすくなると考えられます」

ただし、こうした健康データの利活用は本人の同意が前提になります。「入社時に健保組合からデータ利活用の重要性や個人情報管理の安全性をしっかり説明し、 同意してもらえるようにすることが大切」だと古井先生は繰り返しました。


例3 保健事業の標準化~データに基づくパターン化



第3期データヘルス計画で目指されている保健事業の標準化も、医療DXで目指せる未来像のひとつです。古井先生は「標準化と統一化はまったく異なる」と強調します。
例えば、特定保健指導を『統一化』し、どの健保組合、事業所でもまったく同じように行っていても、なかなか事業の効果は期待できません。その職場の業種・業態やそれに伴う働き方、加入者の性別・年齢などの属性、さらにこれまで実施してきた保健事業の内容によって、効果を上げられる特定保健指導の内容が異なるためです。こうしたバリエーションをデータに基づいて効果的なプログラムへとパターン化をすることで「標準化」が実現すると 古井先生。こうして高い予防効果を上げながら現場の負担を軽減し、加入者の健康課題解決により注力できるようになるのが、標準化のメリットだといいます。

「健保組合はデータヘルスポータルサイトの様式や共通の評価指標など、国内でも特に予防の標準化が進んできた医療保険者です。そうした健保組合ならではの標準予防をぜひ推進してほしいと思います」


目指す世界観を被保険者、事業所に周知して


医療DXの推進に当たっては、このような保険者自身が目指す世界観を関係者に明示することが不可欠だと古井先生は力を込めます。

「『とにかく医療DXを進めることに意義がある』と叫ぶだけでは、事業主からも、医療機関からも、被保険者からも賛同を得られないでしょう。 大切なのは目的志向の医療DXです。健保組合がこれから目指すべき姿を示し、その実現のためには健康課題にデータで寄り添っていく必要があると伝えられれば、関係者の前向きなアクションにつなげやすくなります。
自組合が向かうべき世界観がなかなか整理できない場合は、組合外の関係機関、例えば支払基金やJMDCなど民間事業者ともコミュニケーションを取りながら検討して、少しずつ明文化してみるとよいでしょう。母体企業や被保険者と議論しながら、組合の文化に即した医療DXの意義を考えていってほしいと思います」


おわりに


国の医療DXに協力するという姿勢にとどまらず、健保組合自ら積極的に医療DXを推進してそのメリットを享受していく重要性を再認識できた講演でした。改めまして、今回ご登壇いただいた古井先生に御礼申し上げます。

こちらのレポートはダイジェストとなるため、より詳細な内容を知りたい方はぜひオンデマンドセミナーをご視聴ください。


マイナ保険証を基軸とした医療DXがもたらす、データヘルス・コラボヘルスの推進について
オンデマンド視聴は下記よりご視聴いただけます

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