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【解説】令和6年度健保決算見込み|健保組合の5割弱が赤字に─高齢者医療支援の負担増

2025年9月25日、健康保険組合連合会(以下、健保連)は「健康保険組合 決算(見込み) 集計結果(概要)-6年度決算見込みと今後の財政見通しについて -」を発表しました。前年度から改善して経常収支は黒字化の見込み。しかし、高齢者拠出金負担をはじめとする財政圧迫要因がより深刻化している実態も明らかになっています。

今回は同リリースのポイントを押さえたうえで、健保組合が財政強化に向けて取り組める対策を考えます。

 

※各数値は、2024(令和6)年度の決算見込みについて健保連へ報告された1,377組合の決算見込データ(8月時点)をもとに、健保連が2025(令和7)年3月末時点に存在する1,378組合の財政状況を推計し、その結果を取りまとめたものです。

 


収支改善も拠出金負担割合は45%超

健康保険組合連合会「健康保険組合 決算(見込み) 集計結果(概要)-6年度決算見込みと今後の財政見通しについて -」より引用

 

2024(令和6)年度の健康保険組合決算については、経常収支が145億円の黒字となり、前年度から1,510億円改善の見込みです。

収支改善の主な要因は保険料収入の伸びで、前年度から4,261億円(前年度比4.9%)の増加。背景には、三十数年ぶりとなる高い賃金上昇と保険料率の引き上げがあると報告されています。

一方、経常支出も前年度比3.2%増と、引き続き増加傾向が示されました。特に高齢者医療制度への拠出金(後期高齢者支援金、前期高齢者納付金)は、保険料収入の伸びを上回る5.7%(2,065億円)増加の見込みです。 

 

健康保険組合連合会「令和6年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-6年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用

 

義務的経費(法定給付費と拠出金)に占める拠出金の負担割合は健保組合全体で45.1%に達し、負担割合が50.0%以上の組合は全体の18.4%にあたる253組合と、前年度の15.0%から3ポイント以上の増加。高齢者拠出金負担が、健保財政を圧迫する深刻な要因であり続けている実態が浮かび上がっています。

このような状況で、全体収支は黒字化が見込まれる一方、約半数にあたる660組合(47.9%)が赤字であると報告されており、依然として厳しい財政状況が続いているといえます。

 

4分の1近くの組合が保険料率10.00%以上

健康保険組合連合会「令和6年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-6年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用

 

適用状況および財政指標を見てみると、組合数は前年度に比べ2組合減少し、1,378組合(2025(令和7)年3月末現在)。

収支均衡に必要な実質保険料率は0.06ポイント減の9.30%(単一組合:9.18%、総合組合:9.84%)となりましたが、各組合が設定した保険料率の平均料率(単純平均)は、前年度比0.04ポイント増の9.31%の見込みです。協会けんぽの平均料率(10.00%)以上の保険料率を設定している組合は334組合(単一組合:223組合、総合組合:111組合)となり、組合全体の24.2%を占めています。厳しい財政状況の中で、健保組合が保険料率を上げざるを得ない状況が伺えます。

 


今後も懸念される医療費・拠出金負担の増大

健康保険組合連合会「令和6年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-6年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用

 

2025(令和7)年度の見通しについては、引き続き賃金の上昇が見込まれるため、収支はさらに改善し、2,200億円の黒字と推計されています。ただし、支出の短期的、中長期的な増加も懸念され、今後の動向を慎重に見極める必要があると指摘されています。


保険給付費の短期的な増加見込み

 

保険給付費の動向については不確定要素が多いものの、2025(令和7)年4〜6月の医療費がすでに前年度比+ 2.9%となっている実績を踏まえ、同年は新型コロナ感染拡大以前よりも高い伸び率が見込まれています。

 

高齢者拠出金の中長期的な増大

健康保険組合連合会「令和6年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-6年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用

 

令和7(2025)年度に団塊の世代が全員75歳以上となるため、後期高齢者支援金の負担額は今後も中長期的に高い水準で推移する見込みです。加えて、2027(令和9)年度以降は前期高齢者数も増加に転じるため、拠出金負担増は避けられないと予測されています。拠出金を支える現役世代の減少も予測される中、被保険者一人当たりの負担はさらに重くなる見通しです。


2026年度開始|「子ども・子育て支援納付金」負担の発生

こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度の概要について」より引用

 

令和8(2026)年度から「子ども・子育て支援金制度」が開始され、医療保険者は毎年度、政府に対して支援納付金を納付する義務が生じます。これにより、健保組合全体で年間2,000億円超の新たな納付金負担が発生する見込みです。さらに、こども家庭庁の試算では、令和10(2028)年度時点では健保組合の負担額が3,700億円規模に達するとされており、財政への影響拡大が懸念されます 。

 


効果的な保健事業が拠出金負担軽減のカギに

 

以上のような健保連の発表からは、決して楽観視できない健保組合の財政状況が浮き彫りにされています。財政強化に向けて各保険者が取り組めるのは、高齢者拠出金(後期高齢者支援金、前期高齢者納付金)負担の抑制と、保険給付費にかかわる医療費の適正化です。

後期高齢者支援金については、「後期高齢者支援金の加算・減算制度」において加算対象とならないよう、特定健診・保健指導の実施率を向上させるとともに、減算に向けて総合評価指標項目へ取り組むことが有効です。

また前期高齢者納付金については、金額の算定に影響する前期高齢者の医療費削減が納付金削減につながります。若年層からの生活習慣病対策に加え、前期高齢者で課題になりやすい適切な医療の受診方法や服薬指導などに注力したいところです。

そして、こうした拠出金負担を抑制するための取り組みは、そのまま長期的な医療費の適正化にも直結します。健診データやレセプトデータなどに基づく費用対効果の高い保健事業の運用が、改めて重要であるといえます。


おわりに

 

短期的な収支は改善する見通しですが、増え続ける拠出金負担など、今後も健保組合にとっては困難な財政状況が続くと考えられます。新たな納付金などの外部要因も懸念されますが、財政強化に向けて組合内で取り組める対策も少なくありません。今後の動向を注視しつつ、引き続き、各保険者の課題に即した費用対効果の高い保健事業により注力し、拠出金負担の軽減や中長期的な医療費適正化を目指したいところです。

 


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