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【解説】高額レセプトが10年で6倍|健保財政を圧迫する医療費高騰と保険者の対応策

1,000万円を超える高額レセプトの数は、この10年間でなんと6倍超にも増加…。
保険者の財政運営は、今危機的な状況を迎えているといっても過言ではないでしょう。特に小規模の保険者の中には、存続に影響しかねないほどの財政負担が生じる可能性があることも指摘されています。

 

そこで今回は、健康保険組合連合会(以下、健保連)が2025年9月に公表した「令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」をもとに、近年の医療費のトレンドや高騰の背景、保険者として押さえておきたい対応の考え方を整理。

現状を深く理解することで、より正確な経営判断や効果的な施策の企画につなげてください。 

 


医療費高騰の背景にある「高額な医薬品」の使用

「令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要」によると、令和6年度は「1,000万円以上のレセプト数」が過去最多の2,328件に上りました。前年度からは172件の増加(+8%)で、10年前と比べるとなんと6倍以上にも増えています。

 

このような医療費高騰の背景には複数の要因がありますが、中でも最大の要因として挙げられるのが高額な医薬品の使用です。以下の表のように、近年は高額な医薬品が次々に保険収載されました。

 

令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要より引用
 

特に悪性腫瘍の治療では、高額な医薬品の使用が目立ち、使用額も大きく伸びています。中でも、上記の表にある「イエスカルタ」「ブレヤンジ」「アベクマ」の使用額の伸びが顕著です(下図)。

 

 令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要より引用

 

このほか難病治療薬などで、薬価が1,000万円を超えるような超高額ではないものの、一定程度高額かつ投与量が多く、継続的な使用が必要となる医薬品については、使用額が高くなる傾向が確認されています。

 

治療に大きく寄与する画期的な新薬の登場は医療の進歩において大変喜ばしいことではありますが、それによって医療費の高騰が一段と進展している点にもしっかりと向き合わなければなりません。


「高額医療交付金」の厳しい交付状況

 

高額な医療費が発生した際、健保連は当該の健保組合に対し、健康保険法附則第2条に基づいて医療費の一部を交付します。これは「高額医療交付金」といい、健保組合の財政破綻を防ぐために交付されます。

 

高額医療交付金制度とは?

 

高額医療交付金制度は、各健保組合が被保険者から徴収した「調整保険料」を財源として、健保連が運営する共助の仕組みです。健保組合は、レセプト1件あたりの決定金額が交付基準額(一般疾病150万円、特定疾病100万円)を超えた際に、高額医療交付金の交付を申請できます。

 

交付対象額は「交付基準額〜500万円以下までの2分の1」+「500万円を超過した金額の100%」と定められています。

ただし、前述のとおり「交付対象額」と実際の「交付額」には差があり、交付額は「交付基準額〜500万円以下までの2分の1×交付率」+「500万円を超過した金額の100%」で算出されます。

 

先に触れたとおり、近年は医療費が急激に高騰しているため、自ずと高額医療交付金の「交付対象総額」も年々増加しています。具体的には、令和6年度は約1,515億円に上りました(参考:令和5年度の交付対象総額は約1,395億円)。

しかし、令和6年度の「交付額」は約1,203億円にとどまっています(参考:令和5年度の交付額は約1,067億円)。交付財源に限りがあるため、実際には「交付対象額に交付率を乗じた金額」を交付しているためです。

 

高額療養交付金の財源は主に医療保険料と国庫補助ですが、国庫補助は年額200億円程度に留まっており、残りの大部分は医療保険料等で賄われています。この厳しい財政状況が、高齢化社会における制度維持の大きな課題となっており、令和8年度以降の自己負担上限額の引き上げといった制度の見直しが急務となっています。

 

※本記載は2025年12月時点の予算案・公表情報に基づいています。国庫補助額や制度の内容は今後変更される可能性があります。

令和6年度 高額医療交付金交付事業における高額レセプト上位の概要より引用


保険者が今やっておくべき2つの方向性

近年の医療費高騰に対し、保険者が今できる対応は、大きく分けて「加入者へのはたらきかけ」と「医療費動向の把握・分析」の2つの方向性に整理できます。
それぞれについて、実務上押さえておきたい具体的なポイントを確認していきましょう。

 

加入者へのはたらきかけ

 

①早期発見につなげる 

医療費が高額になりやすい血液のがん(白血病や悪性リンパ腫、多発性骨髄腫など)には、特定の予防法はありません。そのため、できるだけ早い段階での発見と治療が重要になります。
血液のがんは早期発見が難しい疾病ですが、健康診断の結果からその可能性を疑えるケースもあります。加入者には、血液検査を含む特定健診、一般健診を毎年受診するよう促しましょう。

 

②「高額療養費制度」など制度理解を促す

高額な費用がかかる治療が必要になった際、毎月の自己負担に上限があることを加入者が理解していれば、治療に対する本人の不安を軽減につながります。あわせて、事前の説明や問い合わせ対応がしやすくなり、保険者側の事務負担の軽減にもつながります。

 

③手続きの簡素化に向け、マイナ保険証の登録・活用を案内

マイナ保険証を利用することで、事前の限度額適用認定証の申請が不要となり、窓口での支払いを自動的に自己負担上限額までに抑えることができます。
書類発行の手間や高額な一時払いを回避できるため、制度を円滑に利用する観点からもマイナ保険証の登録・活用を案内していくことが重要です。

 

医療費のトレンドやその背景の分析

高額レセプトが増加すると、次年度以降の医療費予測が困難になります。これに伴って準備金の適正金額を算定しにくくなり、保険者の財政運営に悪影響が出る可能性も否めません。医療費のトレンドや、今回ご紹介した高額な新薬の保険収載のようにインパクトの大きい変化に関する情報収集は積極的に行い、現状をできるだけ正しく捉えながら今後の計画を検討していく必要があります。

 


加入者の健康を支え続けていくために

 

医療費の高騰により、保険者は非常に厳しい財政運営を強いられています。しかし、医療の進歩自体は素晴らしい進化であり、その医療で助けられる加入者を支えていくことは、これまでもこれからも保険者の重要な役割です。高額医療交付金制度のような健保組合間の共助、そして各保険者の情報収集と発信をはじめとする工夫や努力によって、厳しい局面を乗り越えていくことが期待されています。

 


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