
【ユーザー会|レポート前編】第3期データヘルス計画中間評価・見直しを前に——「攻めの予防医療」が保険者運営を変えていく
2026年5月13日、「2026年度春 JMDCユーザー会」を開催いたしました。今年度は、保険者様同士の地域を超えた交流を深め、新たな学びを得る場として活用していただくことを目的とし、東京国際フォーラムでの一拠点開催となりました。
当日は全国から300名近くの健康保険組合・共済組合等の担当者にご来場いただき、オンライン参加を含む500名以上が参加する会となりました。ご参加いただいた皆様には、改めて感謝申し上げます。
2024年度からスタートした第3期データヘルス計画は、今年度「中間評価・見直し」の時期を迎え、保険者にはますます効果的・効率的な事業運営とデータ活用が求められています。
本レポートは、皆様の今後の保健事業のヒントとなるよう【前編】【後編】に分けてお届けします。 前編となる本記事では、第1部の当社代表 野口によるデータ活用のハイライトと、第2部の東京大学 古井祐司 特任教授による「攻めの予防医療」に関する特別講演の内容をご紹介します。
【第1部】保険者の皆様のデータが、保健事業と社会課題解決の両方に活きている

JMDCがお預かりしているレセプト等のデータは、現在、毎月2,000万人以上という規模に達しています。これらは厳格なセキュリティ体制のもと、個人を特定できない「匿名加工情報」として処理された上で、保険者様同士のベンチマークや学術研究などに活用させていただいております。

こうしたビッグデータは、社会課題の解決にも直結しています。例えば、希少疾患において確定診断がつくまでに長期間を要する「診断ラグ」の調査では、患者さんの35%が診断の5年以上前から何らかの症状で受診していたことをデータで可視化し、大きな反響を呼びました。

また、海外で承認されている薬が日本で使えない「ドラッグ・ロス」問題についても、国内の潜在的な患者数を算出することで、日本市場での新薬開発促進に向けた提言を行っています。
JMDCは「健康で豊かな人生をすべての人に」というミッションのもと、皆様からお預かりしたデータを適切に管理・活用し、保健事業の支援と社会課題の解決、その両方に貢献し続けてまいります、と締めくくりました。
参考)
JMDC、厚労特別研究班とともにドラッグ・ロス解消に挑む~ 未承認医薬品の国内患者数をビッグデータ等で明らかに (2025年3月)
JMDCとアレクシオンファーマ、希少疾患患者の「診断ラグ」実態調査を実施 ~ ビッグデータにより、診断ラグとその影響を定量的に評価 (2025年5月)
【第2部 】「攻めの予防医療」へ。データヘルスで進める新アクション
第2部では、東京大学 未来ビジョン研究センター 特任教授/自治医科大学 客員教授古井 祐司氏にご登壇いただきました。3つのトピックに沿ってご紹介します。
※本記事の図表は、古井祐司氏が登壇した講演の元となった公開資料「攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議」提出資料をもとに掲載しています。
古井氏は、医学博士、専門は予防医学・社会保障政策。30代で過疎地の「出前医 療」に魅せられ、基礎医学から予防医学に転向。2015年から政府の経済財政諮問会議専門委員として骨太方針等の策定過程に関わり、政策と現場とのつながりや、実証研究の大切さを再認識する。
産学官連携のもと、持続可能な社会保障に関する研究、教育、政策提言に取り組み、第3期データヘルス計画に向けた方針見直しに関する検討会などの厚生労働省委員、健康経営推進検討会の経済産業省委員、自治体、保険者団体などでも委員を務めるなど、多方面で活躍されています。
トピック1:「攻めの予防医療が始まる」。これからの保険者運営はどう変わるか。
現在、政府は「攻めの予防医療」という新たな国家戦略を打ち出しています。単なる医療費削減ではなく、持続可能な長寿国日本の構築に向けて、国民皆保険制度の維持、企業と協創した労働生産性の向上などを目指しています。

そして、この国家戦略のエンジンのひとつが「データヘルス計画」です。保険者の皆様が11年間PDCAを回してきた実績があり、データに基づく政策(EBPM)の要素が最も入っているからこそ、その役割が期待されています。
また、持続可能な健康保険制度の構築には「企業との協創」が不可欠です。
健康経営はいま転換期を迎えており、経営者を本気にさせる企業経営への接続として「人的資本投資」へと1段レベルを上げる流れが加速しています。すでに中小企業では「社員への健康投資が利益や離職防止にプラスに働く」という因果構造が検証されており、今後は大企業でも同様の検証が進む見込みです。
今、保険者に求められていること
「持続可能な長寿社会構築のために、社会保障政策の課題と産業政策の課題を合わせて解決する点が日本の特徴です。特に、健康保険組合等と事業主が人的資本を基盤に、国民皆保険制度の持続可能性と企業価値の向上を実現するための新たな政策が注目されます。いずれにしても、これからの保険者運営では保険者機能の発揮の最大化がポイントです。」
トピック2:データヘルスの「質」を高める
第3期計画中間評価・見直し(EBHの確立)
「医療の世界では、30年前から『EBM(根拠に基づく医療)』が確立し、電子カルテ等を通じて治療のノウハウが共有されています。一方、予防分野にも同じ考え方を持ち込もうというのが『EBH(根拠に基づくヘルスケア)』です。その中核となるデータヘルスにおいては、プロセスを詳細に記録する『カルテ』が十分に整理されていない状況にあります。」
そこで注目されているのが「保健事業カルテ」です。これは「どのような人に・どのタイミングで・どうアプローチすれば効果が出るのか」というプロセスと工夫を記録・蓄積していく仕組みのことです。カルテをつけることで、たまたまうまくいった施策ではなく、誰もが同じ成果を出せる「再現可能な知見」として共有できるようになります。

攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議
第3回 資料4「古井祐司東京大学未来ビジョン研究センター特任教授提出資料」より引用
実際、国民健康保険97市町村・5年間のデータを用いた実証では、データヘルスを進めた保険者ほど地域のリスク者が減少し、必要な受診による外来医療費割合が上昇する一方で、全体医療費は増加抑制されるという構造改善が確認されています。
データヘルスの質向上は、保険者機能の大きな武器になる
「データヘルス(保健事業)の質向上は、保険者機能を発揮するための大きな武器になります。国民健康保険では、データヘルスを進めた保険者ほど地域のリスク者が減少し、必要な受診による外来医療費割合が上昇、全体医療費は増加抑制という構造改善が検証されました。そこで、客観的な事業評価に基づき、効果を上げる方法・体制の工夫を抽出し、全国で再現可能な知見として共有することが、データヘルスの質を高めるカギになります。」
トピック3:成果を分ける「ヘルスリテラシー」とPHRの戦略的活用
特定保健指導において、改善率に圧倒的な差を生む要因は、加入者の「ヘルスリテラシー」です。たとえば、「血糖値が高いから食事に注意する」と自分の健診結果を正しく理解している層だけが、劇的な数値改善を示したのです。

攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議
第3回 資料4「古井祐司東京大学未来ビジョン研究センター特任教授提出資料」より引用
このリテラシーを上げ、行動変容を促すためには、「PHR(パーソナルヘルスレコード)」を通じた日々のモニタリングが有用と考えられます。PHRで日々の数値をモニタリングしている人は、自身の身体との対話で健康が維持され、重症化による入退院を防ぎ、人生のQOL(生活の質)を大きく向上させることができます。
PHRは情報提供ツールではなく、戦略基盤として位置づける時代へ
「PHRの戦略的活用は、健康保険組合等が加入者にデータで価値を還元しつつ、保健事業の高度化と構造的な医療費適正化を同時に実現する基盤になります。今後の保険者運営においては、PHRを単なる情報提供ツールとしてではなく、加入者の行動変容を促し、保険者機能を最大限に発揮するための戦略基盤として位置づける潮流です。」

攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議
第3回 資料4「古井祐司東京大学未来ビジョン研究センター特任教授提出資料」より引用
古井氏は講演の最後に、「『攻めの予防医療』は医療費適正化にとどまらず、健康を人的資本の中核に据え、国民のウェルビーイングと持続可能な社会保障を実現する国家戦略です。データヘルスを国家の成長エンジンにしていきたいと考えています。」 と力強く締めくくられました。
古井氏の登壇に対し、ご参加いただいた方々から多くの反響をいただきました。(参加者アンケートより)
「古井様のバックグラウンドならではの知見やエビデンスを聞けて参考になった。政策動向と絡めて今後の保険者運営を考えるうえで道筋が見えた」
「今後の健保の保健事業の方向性の指針になると感じました」
「予防医療に力を入れようとしている当健保の方向性が、国が目指そうとしている方向性と合致していることを確認できました」
古井氏がお話しされた「攻めの予防医療」は、すでに国の政策として具体的な内容の検討が始まっています。
【関連情報】国の政策動向:「攻めの予防医療」論点整理がまとまりました
古井氏が有識者として参画された「攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議」は、令和8年5月25日の第5回会議をもって「性差に由来する健康課題等への対応を推進するための論点整理」をとりまとめました。
保険者による予防・健康づくりの推進や、データヘルスを基盤とした「予防医療モデル」の構築に向けた具体的なロードマップも示されています。詳細は内閣官房の公開資料もあわせてご参照ください。
続く【後編】では、JMDCのプロダクトを活用して総合評価指標の点数を大きく伸ばした2つの保険者様(武田薬品健康保険組合様・全国労働金庫健康保険組合様)の実践事例を詳しくご紹介します。ご期待ください!
参考資料)
攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議
第5回(令和8年5月25日 )議事次第・資料
第3回(令和8年3月9日 )資料4「古井祐司東京大学未来ビジョン研究センター特任教授提出資料」


