
「ポスト2025」健康保険組合の提言で読み解く、保険者の次の一手
2025年9月、健康保険組合連合会(以下、健保連)は「『ポスト2025』健康保険組合の提言」を発表しました。団塊の世代がすべて75歳以上となる節目の年に、国民皆保険制度を将来にわたって維持するべく掲げられたものです。
ポスト2025の世界で、健保組合をはじめとする保険者はどう変わっていくのでしょうか。
本記事では、健保連が公表した本提言をもとに、「5つのチャレンジ」を中心に整理しながら、データ活用・デジタル化・発信力強化といった視点が保険者実務にどのようにつながるのかを読み解きます。
第3期データヘルス計画の中間見直しでも重要な検討材料となる同提言について、保険者に関わる内容を中心に解説します。
「『ポスト2025』健康保険組合の提言」の概要

健康保険組合連合会「「ポスト2025」健康保険組合の提言 概要版 2025年9月」より引用
今回の健保連による提言では、まず我が国の医療保険制度が直面する危機的状況が提示され、それに対して健保連が「目指すもの」が示されています。
保険者はもとより、医療保険制度の加入者(国民)から国、医療提供者、そして事業主まで、すべてのステークホルダーが課題を共有し、それぞれのアクションにつなげることが目指されているのがポイントです。
| 【提言で想定された危機的状況】 1.少子高齢化による給付と負担のアンバランス拡大 現役世代に偏った負担構造のままでは、医療保険制度自体の崩壊につながる恐れがある。 2.医療費の大幅な増加(高齢化、医療の高度化) 国民医療費は2040年には70兆円を超え、その半分を後期高齢者の医療費が占めると予測される。 3.医療・介護提供体制のひっ迫 人材不足と変化する医療ニーズに対応するためには、提供体制の抜本的な効率化が不可欠である。 4.健保組合財政の悪化と国民皆保険制度の基盤弱体化 加入者特性に応じたきめ細やかな保健事業が困難になる。さらに健保組合の解散が相次ぐ事態も懸念される。 |
【「私たちの目指すもの」の主なポイント】
1.全世代で支える医療保険制度へ
すべての世代間で負担を公平化する。保険給付の適正化・重点化を図る。
2.予防・健康づくり重視への転換
加入者(国民)一人ひとりが予防・健康づくり、セルフメディケーション、適切な受診に努める。健保組合と事業主が連携してそれを支援する。
3.デジタル技術を最大限に活用
医療の効率化と質の向上を図る。
特に目指す方向性においては、医療費の適正化や制度の持続可能性を確保するため、これまで以上に「予防・健康づくり」を重視する方向性が明確に打ち出されているのが特徴的だといえます。
これに続いて、アクションへの具体的な指針として、加入者、国、医療提供者、事業主それぞれへの「お願い」と、健保組合が取り組む「4つの約束」および「5つのチャレンジ」が掲げられています。
第3期データヘルス計画 中間見直しで参照したい「4つの約束」「5つのチャレンジ」
健保組合の具体的なアクションとして提示されているのが「4つの約束」「5つのチャレンジ」です。
ポスト2025の世界で医療保険制度を取り巻く状況が大きく変わる中、健保組合をはじめとする保険者がどう変わっていくべきか、また具体的に何にどう取り組むべきかが示されています。特に保健事業については、従来・新規を問わず、単に実施するだけでなく、成果を説明できる事業への転換が求められている印象です。
令和8(2026)年末には、第3期データヘルス計画の中間見直しも行われる予定です。提言の内容は、この中間見直しにあたっても重要な検討材料になるでしょう。
4つの約束|従来の保健事業をより確実に実施

健康保険組合連合会「「ポスト2025」健康保険組合の提言 概要版 2025年9月」より引用
「4つの約束」では、加入者への「3つのお願い」を後押しすべく、保険者が従来の取り組みをこれまで以上に確実に実施する旨を掲げています。
具体的に挙げられているのは「各種健診の受診勧奨・受診環境整備」「個別化された保健指導」「ヘルスリテラシー向上に向けた情報提供」「コラボヘルス」の4領域です。
5つのチャレンジ|データ活用・デジタル化と発信の強化を

健康保険組合連合会「「ポスト2025」健康保険組合の提言 概要版 2025年9月」より引用
続いて「5つのチャレンジ」では上図の通り、保険者が社会の変化に対応すべく、個々の組合の状況や加入者特性に応じて取り組みを検討していくことが整理されています。ここではその中でも、特に保険者実務と関係の深いデータ活用とデジタル化に着目します。
データ分析強化による加入者サービスの充実
医療機関から得られる各種データや、ウェアラブル端末などから得られるPHRデータ(ライフログ、バイタルデータ)を活用し、加入者一人ひとりに適した健診、イベント、プログラム、生活習慣や適正受診について情報提供を行うといった取り組みが示されています。
あわせて、スマートフォンなどを活用した加入者との双方向コミュニケーションの強化です。健康状態や勤務状況、生活習慣を把握したり、相談対応を強化したり、健診の申し込みをデジタル化したりといった取り組みが挙げられています。
デジタル化による健康保険組合業務革新
デジタル技術を活用した適用・給付など健康保険組合業務全般の改革、いわゆる「健保組合DX」の推進が示されています。電子申請への対応を通じて、加入者・事業主の利便性を向上させると同時に、業務全体の標準化・効率化に取り組むことが示されています。
資料では、電子申請への対応を通じて加入者・事業主の利便性を向上させるとともに、業務全体の標準化・効率化に取り組み、加入者サービスの拡充につなげていくことが整理されています。
なお、「5つのチャレンジ」では、データ活用やデジタル化、発信力の強化といった視点に加え、ロコモ対策や女性特有の健康課題への対応、子ども・子育て支援、外国人対応など、加入者の多様性を踏まえた保健事業の取組も示されています。
こうした方向性と重なるテーマについて、具体的な取組状況を整理した資料として、健康保険組合連合会「データヘルス推進に向けた取組等について(2025年度データヘルス研修会資料)」を紹介します(下図)。

健康保険組合連合会 データヘルス推進に向けた取組等について 2025年度データヘルス研修会資料より引用
本資料では、令和5(2023)年9月の「健康保険法に基づく保健事業の実施等に関する指針」改定において、複数の観点から重要性が示されてきた保健事業について「実施に努めること」と明記されており、改めて取り組み強化の必要性がうかがえます。
健保連は、こうした保健事業について2030年に向けた具体的な目標値を掲げるとともに、現時点の取り組み状況を整理し、保険者による積極的な取り組みを促しています。
特に女性の健康課題や若年層の生活習慣、メンタルヘルスといった領域については、将来の医療費増加リスクを見据え、現役世代のうちから積極的に取り組みたい「予防・健康づくり」だと位置づけられています。
健康保険組合の発信力強化
こうした多様な取組を実効性のあるものとするためには、保険者から加入者に向けた情報発信の在り方も重要な視点となります。その一つとして、健保連は「健康保険組合の発信力強化」を掲げています。
提言では、加入者の健康意識向上に向けた情報提供に加え、健保組合の役割や存在意義を積極的に発信することや、医療保険制度改革の必要性を訴える政策提言など、広範な広報活動の強化を打ち出しています。

健康保険組合連合会「「ポスト2025」健康保険組合の提言 概要版 2025年9月」より引用
中でも加入者に対する発信については、提言の中で「加入者(国民)の皆さまへの3つのお願い」掲げている通り、健保連が改めてその重要性を強調している領域であることがうかがえます。
その背景として、健保連が実施したアンケートでは、「健保組合の保険料の約4割が高齢者医療への支援金として支出されている」実態を、回答者の半数以上が知らなかったことなどが、医療保険制度を取り巻く状況に対する認知の低さが示されています(上図)。
健保連の米川副会長は「健保ニュース 2025年12月中旬号」のインタビューにおいて、健保組合に加入者への積極的な発信を求めています。
特に将来世代である若年層向けの発信を強化し、加入者一人ひとりに当事者意識を持ってもらえるよう、保険者から働きかけていく必要性が語られています。
おわりに
「ポスト2025」は保険者にとって、受動的に制度対応するだけでなく、自ら能動的に変革していく姿勢が求められるフェーズだといえるでしょう。それぞれの保険者が存在価値を高めていくことが、我が国の医療保険制度の基盤維持に直結します。
今後の保健事業や保険者業務を考えるうえで示唆に富んだ「『ポスト2025』健康保険組合の提言」は、目前に迫る第3期データヘルス計画の中間見直しにおいても、積極的に参照したいところです。



