民間PHRサービスって何ができるの?マイナポータルとの違いや活用法を解説
健診・検診結果や医療費情報など、個人ごとのさまざまな健康・医療情報を一元管理できる民間のPHR(Personal Health Record/パーソナルヘルスレコード )サービスが台頭しています。
健康保険組合を始めとする保険者が保健事業の一環として導入するケースも見られる一方、「健診結果などは被保険者自身がマイナポータルで閲覧すれば十分ではないか」と感じる人もいるかもしれません。
こちらでは、民間PHRサービスの役割やマイナポータルとの違いを踏まえながら、保険者における民間PHRサービスの活用について解説します。
PHRの役割とは 政府が推進する背景
そもそも PHRとは 、個人ごとの健康や医療、介護に関する情報を、デジタルで統合する仕組みのこと。
統合される情報には、健診・検診結果や薬剤情報、手術情報、予防接種歴のほか、健康に関わる生活習慣の記録「ライフログ」、脈拍や血圧、体温といった「バイタルデータ」も含まれます。
PHRにより、従来、市町村や医療機関、保険者、学校などがバラバラに保有・発行していた健康・医療情報を、個人がPCやスマートフォンを通じてまとめて閲覧できるようになり、その結果、個人がより質の高い医療を受けられるようになると期待されています。
例えば、救急時にPHRの既往歴や薬剤情報を参照して適切かつ迅速な処置をしたり、慢性疾患の治療で医師がライフログをもとにより的確な指導をしたりできるようになると期待されています。
さらに、個人が日頃から自身の健康状態を振り返りやすくなり、疾病予防や健康増進に活用できるのも重要です。
深刻化する少子高齢化を背景に、健康寿命の延伸、社会保障費と医療費の削減につながる取り組みとして、こうしたPHRを政府も推進しているのです。
出典:厚生労働省「PHR(Personal Health Record)サービスの利活用に向けた国の検討経緯について」
マイナポータルと民間PHRサービスの違い
個人に紐づく健康・医療情報を一元的に保管し、閲覧できる仕組みの代表例が、マイナンバーを使った公的な仕組みであるマイナポータルです。
一方、民間事業者からもスマートフォンアプリなどを活用したPHRサービスが多数展開されています。
両者の違いとしては、マイナポータルは公的に収集できるあらゆる情報を統合して閲覧できるインフラ的な仕組みであるのに対し、民間PHRサービスはより積極的に健康・医療情報を活用して疾病予防、健康増進などにつなげるツールとしての側面が強いものとなっています。
昨今ではマイナポータルと連携できる民間PHRサービスも登場。政府も「PHR(Personal Health Record)サービスの利活用に向けた国の検討経緯について」などの資料で「国民が効果的に保健医療情報を活用できる環境を整備するためには、公的に最低限の利用環境を整備するとともに、民間PHR事業者の活力を用いることが必要不可欠」であると公表し、安全な連携基盤の整備を目指しています。
マイナポータル ~個人情報を統合して閲覧できるインフラ
マイナポータルはマイナンバーを持つすべての国民が活用できる、さまざまな行政手続きのオンライン窓口です。
その中の「わたしの情報」メニューでは、地方自治体や国の行政機関などが保有する個人情報を閲覧できます。
対象となる情報はマイナンバーごとに統合されており、健康・医療、税・所得・口座情報、年金関係、子ども・子育て、世帯情報、福祉・介護、雇用保険・労災に関する情報が含まれています。
健康・医療について確認できる情報は以下の通りです。
マイナポータル「わたしの情報について」取得できる健康・医療情報一覧
項目 |
概要 |
---|---|
健康保険証情報 |
保険者名、被保険者証記号・番号・枝番などの健康保険証の情報 |
診療・薬剤情報 |
医療機関・薬局における診療や薬・処方・調剤の情報(ジェネリック薬品による削減可能額も確認可能) |
医療費通知情報 |
医療機関などを受診し、支払った医療費の情報 |
予防接種 |
自治体が保有する予防接種の実施に関する情報(四種混合、BCG、日本脳炎、新型インフルエンザなど) |
特定健診情報・後期高齢者健診情報 |
メタボリックシンドロームに着目した健診結果の情報(40歳以上) |
検診情報 |
がん、肝炎ウイルス、歯周疾患などの検診結果の情報 |
医療保険 |
健康保険・後期高齢者医療など医療保険の保険証の資格情報、出産育児一時金や高額療養費などの給付情報 |
医療保険その他 |
医療保険の資格・給付情報のうち、制度間の支給調整に使用される情報 |
学校保健 |
学校病(感染性または学習に支障を生ずるおそれのある疾病)治療で生活保護家庭向けに援助される医療費に関する情報 |
難病患者支援 |
難病患者に対する特定医療費の支給開始年月、支給終了年月、支給年月の情報 |
保険証の被保険者番号等 |
健康保険証の券面に記載の被保険者番号などの情報 |
医療保険情報の提供状況 |
医療保険情報が提供された状況・履歴 |
このように、個人の健康・医療情報を網羅的に閲覧可能となっています。
ただし、マイナポータルはあくまで情報開示の窓口であるため、健診・検診結果に対してアドバイスを受け取ったり、利用者側から新たに健康情報を記録したりすることはできません。
民間PHRサービス ~健康・医療情報の活用が可能なツール
一般的な民間PHRサービスは、ユーザー(利用者)自身がさまざまな健康・医療情報を取り込んで一元管理し、健康の維持増進に活用するものとなっています。
民間PHRサービスの最大の特長は、健康・医療情報がより閲覧しやすくなる点です。例えば、健診結果をグラフ形式でわかりやすく示したり、検査値の異常の示す意味や疾患リスクまで把握したり、結果の経年変化を追ったりできるものが多くなっています。
また、クラウドサービスであるため、スマートフォンアプリなどを通じて情報を閲覧できるのもポイント。ユーザーが日頃から気軽に健康状態を振り返ることができ、書類を紛失する心配もありません。
画像は当社JMDC のPep Up画面
加えて、さまざまな健康・医療情報を疾病予防・健康増進へのアクションにつなげやすいのも、マイナポータルにはない民間PHRサービスの強みです。
例えば、ユーザーはライフログやバイタルデータを記録して日々の健康状態を管理可能。さらに、サービスによっては、PHR事業者が蓄積する医療データをもとに、健診結果やライフログなど個人のデータを分析し、健康状態の維持・改善に向けた生活習慣の改善アドバイスを自動表示してくれるものもあります。
なお、マイナポータルと異なり、利用者が民間PHRサービスにログインしただけでは健康・医療情報を閲覧できるわけではありません。また、サービスによってはマイナポータルと比べ、統合できる健康・医療情報の項目が少ない場合もあります。ただし、マイナポータルとの連携を進めている民間PHRサービスもあり、今後より利便性が高まることが期待されます。
保健事業で民間PHRサービスを活用するメリット
民間PHRサービスは大きく分けて、一般消費者向けのスマートフォンアプリと、保険者や医療機関、企業など組織向けのサービスがあります。
保険者が活用する場合は、保険者側で組織向けサービスを導入し、保健事業の一環として加入者にアプリの利用を促進するのが一般的です。
保険者が民間PHRサービスを導入するメリットは、さまざまな保健事業をアプリ内に集約して実施できる点にあります。以下は具体的な活用例です。
例)
- ウォーキングなどのフィットネスイベントをアプリ上で実施し、取り組み状況に応じてインセンティブポイントを付与。ポイントはアプリを通じて希望する商品と交換可能。
保険者側で取り込んだ健診結果データと、本人に入力してもらったライフログデータを組み合わせて、保健師などによる特定保健指導を実施。面接指導に加え、アプリ内のチャットでも継続的にサポート。
保険者からのお知らせを始めとするコミュニケーション、各種予防接種の申請などの手続きを、アプリ内に集約。
このように民間PHRサービスを有効に活用すれば、加入者が自分の健康状態を把握するところから、保険者の案内を受け取り、実際に保健事業を利用するところまで、一連の流れをアプリ内で作ることも可能です。
加入者の利便性が向上し、健康状態の改善につなげやすくなるのはもちろん、保険者担当者の業務効率化にもつながります。
導入時に注意すべき「安全性」の見極め
導入メリットの大きな民間PHRサービスですが、デリケートな健康・医療情報を扱うこともあり、サービスの選定時には安全性の見極めが欠かせません。
選定基準として参照したいのが、政府が整備を進めている各種ガイドラインへの対応状況です。
代表的なガイドラインとして、総務省、経済産業省、厚生労働省による「民間 PHR 事業者による健診等情報の取扱いに関する基本的指針」があります。
同指針では「情報セキュリティ対策」「個人情報の適切な取扱い」「健診等情報の保存及び管理並びに相互運用性の確保」の3項目について、民間PHRサービスを提供する事業者が対策すべき要件が明記されています。
また、民間PHR事業者はこれらの要件を満たしているかどうかのチェックシートを自社のWebサイトなどで公表しなければならず、保険者などはチェックシートを参照しながらサービスの安全性を判断できるようになっています。
そのほか、厚生労働省による「医療情報システムの安全管理ガイドライン」への対応状況や、安全性に関する第三者認証の取得状況も、選定時の目安となるでしょう。
おわりに
医療費の抑制が急務となり、保険者による保健事業の重要性が高まる中、保健事業の充実と利用促進を図る民間PHRサービスが果たす役割は、今後ますます大きくなるでしょう。
導入を検討する際は、情報の取り扱いの安全性に細心の注意を払いながら、自組織に合った機能や操作性のサービスを選定することが重要です。
なお、2023年4月13日に弊社が開催したオンラインセミナーは、本記事をベースとして新任ご担当者様向けの内容として配信いたしました。オンデマンド配信は下記よりご視聴いただけますので、ご興味のある方は是非ご覧ください。
参考情報
厚生労働省「PHR(Personal Health Record)サービスの利活用に向けた国の検討経緯について」
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所「【資料3】民間PHRサービスの現状と課題に係る調査の結果(送付用) 」