糖尿病とは【保険者が知っておきたい疾病】
目次[非表示]
- 1.概要
- 2.医療費・社会的な影響
- 3.保健事業による対策の考え方
- 3.1.施策例1:重症化予防プログラム
- 3.2.施策例2:特定保健指導の実施率向上
- 3.3.施策例3:インセンティブ付きの予防・健康づくり
- 4.まとめ
概要
糖尿病は、血糖(血液中を流れるブドウ糖)の値を一定に調整する働きを持つホルモン「インスリン」が十分に機能せず、血糖が増えてしまう疾病です。発症のメカニズムによって複数の種類がありますが(後述)、特に多いのは生活習慣などに起因する2型糖尿病です。国内で2型糖尿病の疑いがある人は約1,870万人と、成人の6人に1人にも上ります。
2型糖尿病診断は下図の通り、血液検査でわかる血糖値とHbA1c(ブドウ糖と結合したヘモグロビンの割合)の値をもとに行われます。
また症状は段階的に進行し、糖尿病に至る前ではあるものの注意が必要な状態は「糖尿病の境界型」「糖尿病予備群」と呼ばれます。
症状
糖尿病はほとんど自覚症状がなく進行します。血糖値が特に高くなると、以下のような症状が現れます。
- 喉の渇き
- 頻尿
- 体重減少
- 疲れやすい
- 意識障害
原因・リスク因子
糖尿病には大きく分けて「1型糖尿病」「2型糖尿病」「その他の特定の疾患や機序によるもの」「妊娠糖尿病」の4種類があり、それぞれ原因とメカニズムが異なります。
1型糖尿病
インスリンを分泌する細胞が破壊されることにより起こります。詳細な原因はわかっておらず、自己免疫疾患などが関係していると考えられています。
2型糖尿病
遺伝的な要因に加え、年齢、肥満、高血圧、喫煙、飲酒といった生活習慣に関わるリスク要因が重なって発症します。国内の研究では以下のようなリスク要因が示されています。
厚生労働省がん研究助成金による指定研究班「多目的コホートに基づくがん予防など健康の維持・増進に役立つエビデンスの構築に関する研究」 |
その他の特定の疾患や機序によるもの
糖尿病以外の病気や治療薬の影響で糖尿病が発症する場合があります。
妊娠糖尿病
2025年度は総合評価指標に新たな項目が追加されるほか、一部の配点変更が行われる予定です。
影響
高血糖状態を放置すると血管が傷つき、「三大合併症」と呼ばれる網膜症、腎症、神経障害を引き起こすリスクが高まります。中でも糖尿病性腎症によって人工透析が必要になると、患者本人の医療費負担が大きく増加し、治療によるQOLも著しく低下します。また高血糖状態によって動脈硬化が進行すると、心臓病や脳卒中が引き起こされる恐れもあります。
さらに歯周病を含む感染症にかかりやすくなったり、骨折しやすくなったりすることがわかっているほか、がんのリスク上昇とも関連していることも判明しています。
治療
1型糖尿病の治療ではインスリンの自己注射を行います。
2型糖尿病に対しては合併症の予防・悪化予防に向け、血糖をコントロールする「食事療法」「運動療法」「薬物療法」が行われます。薬物療法では、糖の分解・吸収を遅らせる内服薬や、インスリンの分泌を促す注射などで治療が行われます。
医療費・社会的な影響
国内における糖尿病医療費は年間1兆1,994億円(2021年度)にも上ります*1。また慢性腎不全に至り人工透析が必要になると、患者1人当たり月額約40万円もの高額な医療費が発生。保険者による高額療養費制度を利用するケースも少なくなく、保険者の医療費負担増につながります。
こうした社会的影響から国も糖尿病を重要疾患のひとつとして位置づけており、健康増進法に基づく「健康日本21」(第二次)に記載。また各都道府県における医療計画制度において重点的に対策すべきとされている「5疾病5事業」にも糖尿病が含まれています。
*1 令和3年度国民医療費「主傷病による傷病分類別にみた医科診療医療費の状況」
保健事業による対策の考え方
保険者の保健事業による対策には、主に2型糖尿病の「重症化予防」「発症予防」施策が考えられます。健診数値や医療機関受診の有無(レセプト情報)などからリスクごとに対象者をグルーピングし、優先順位付けをした上でアプローチするのが有効です。
施策例1:重症化予防プログラム
特に重症化リスクの高い加入者を対象とした施策です。
まず未受診者や受診中断者に対する医療機関への受診勧奨は、特に高い優先度で実施すべきだといえます。
参考:JMDCによる重症化予防通知
また医療機関と連携し、重症化リスク者に専門の保健指導を行って継続的な治療につなげます。プログラム内容としては、簡易検査キットの配布と電話・オンラインでの面接指導などが一般的です。
施策例2:特定保健指導の実施率向上
法定の特定保健指導では、特定健診の結果をもとに糖尿病発症リスクの高い正常高値層や予備郡(境界型)を早期に発見して生活習慣改善の指導を行い、発症予防につなげられます。
<参考:糖尿病に関わる特定保健指導対象基準値>
または
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実施率を向上させるためには、対象者にとって何が特定保健指導のハードルになっているのかを想定した働きかけがカギになります。
<特定保健指導実施率向上の工夫の例>
- 健診結果送付後早めに保健指導を案内し、対象者の危機感が高いうちに面談を受けてもらう
- 特定健診会場で初回面談を同時に実施する
- タブレットやスマートフォンなどICTを使って面談を行い、参加しやすくする
- 郵送通知、電話、メールなど複数の手段で繰り返し案内して印象付ける
- コラボヘルスを推進し、事業主側の人事部や上司などからも参加を促してもらう
- 特定保健指導の参加にインセンティブを付与する
施策例3:インセンティブ付きの予防・健康づくり
健康層も含めて参加できるインセンティブ付きの健康づくり施策を行い、生活習慣と健康状態の底上げを図ります。
その代表例が、加入者向けアプリを活用したウォーキングイベントです。イベントの参加や取り組み状況(歩数の順位など)に応じてポイントを付与し、加入者が任意のグッズなどに交換できるようにします。
参考:JMDC「Pep Up」のふれんどウォーク
まとめ
- 糖尿病の中でも特に多い2型糖尿病は、遺伝要因に生活習慣に関わるリスク要因が重なって発症する
- 人工透析が必要な糖尿病性腎不全といった合併症や、脳卒中、心臓病などにつながるリスクがある。
- 国内の糖尿病医療費は年間約1兆2,000億円に上り、また人工透析が必要になると患者1人当たり月額約40万円もの高額な医療費が発生する。
- 保健事業での対策としては、未受診者への受診勧奨通知や医師と連携した重症化予防プログラム、特定保健指導の実施率向上などが考えられる。
<参考情報>
一般の方へ 糖尿病情報センター(国立国際医療研究センター)
令和3年度国民医療費「主傷病による傷病分類別にみた医科診療医療費の状況」
国際協力医学研究振興財団「糖尿病のリスクを高める要因は?」
厚生労働省 健康局がん・疾病対策課「腎疾患対策及び糖尿病対策の取組について」(第3回腎疾患対策及び糖尿病対策の推進に関する検討会 資料)