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高血圧症とは【保険者が知っておきたい疾病】


目次[非表示]

  1. 1.概要
    1. 1.1.症状
    2. 1.2.原因・リスク因子
    3. 1.3.影響
    4. 1.4.治療
  2. 2.医療費・社会的な影響
  3. 3.保健事業による対策の考え方
    1. 3.1.施策例1:受診勧奨通知など重症化予防プログラム
    2. 3.2.施策例2:若年層を含む特定保健指導の実施
    3. 3.3.施策例3:保険者ごとの課題に即した生活習慣改善プログラム
  4. 4.まとめ


概要


安静時に測定した血圧が慢性的に高いと「高血圧症」という病気として取り扱われます。厚生労働省の調査では、現在、国内の約2人に1人が高血圧症であるとされています*1
高血圧症の診断基準は以下の通りです。


<高血圧症の診断基準>
繰り返しの測定で、

  • 診察室血圧:最高血圧(収縮期血圧)140mmHg以上
          または
          最低血圧(拡張期血圧)90mmHg以上
  • 家庭血圧:最高血圧135mmHg以上
         または
         最低血圧85mmHg以上


高血圧症はその原因によって種類が分かれます。高血圧症全体の約90%を占めるのは、遺伝因子や生活習慣が関係していると考えられるものの、原因が明確でない「本態性高血圧」です。一方、特定の疾病が血圧上昇の明らかな原因となっている場合は「二次性高血圧症」と呼ばれます。

*1 厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査報告」


症状


血圧が非常に高いときや急上昇したときは、頭痛やめまい、肩こりといった症状が起きやすくなります。ただし、ほとんどのケースでは高血圧症が原因であるという自覚がありません。したがって、高血圧症の早期発見には定期的な健診の受診が重要になります。


原因・リスク因子


本態性高血圧症は、遺伝的な要因や生活習慣などが絡み合って発生します。特に生活習慣に関する原因として考えられるものには以下が挙げられます。

  • 塩分過多
  • カリウムなどミネラルの不足
  • 加齢
  • 肥満
  • 過度な飲酒
  • 精神的なストレス
  • 運動不足
  • 睡眠不足
  • 喫煙


中でも塩分を摂り過ぎると体内に水分が蓄積され、血液量が増加するため、血圧上昇を起こしやすくなります。
また二次性高血圧症の原因となる疾病には、腎動脈狭窄など腎臓の病気や、原発性アルドステロン症など内分泌系の病気があります。


影響


高血圧症の進行によって動脈硬化が引き起こされると、さまざまな臓器での深刻な合併症につながります。

<各臓器における高血圧症の合併症の例>

  • 心臓:狭心症、心筋梗塞など
  • 脳:脳梗塞、脳卒中など
  • 腎臓:腎硬化症など
  • 目:眼底出血などによる視力低下など

なお、先述した診断基準で高血圧症に当てはまらない場合も、腹部の肥満や高血糖、脂質異常と高めの血圧を複合している、いわゆる「メタボリックシンドローム」を発症していると、これらの合併症が引き起こされやすくなります。


治療


本態性高血圧症の主な治療は、以下のような生活習慣の見直しです。

  • 塩分制限など食事改善
  • 減量
  • 運動
  • 節酒
  • 禁煙


食事についてはもっとも重視される塩分制限のほか、野菜や果物、大豆など、食塩を排泄しやすくする働きのあるカリウムが含まれる食材の積極的な摂取を薦められる場合があります(腎機能が低下している場合は医師の判断が必要です)。また運動は血管を広げて血行をよくし、血圧を下げる効果が期待できること、さらに減量やストレス解消にもよいことなどから推奨されます。


生活習慣を改善しても十分に血圧が下がらない場合は、合併する疾患に応じた降圧薬が処方されます。ただし、服薬を患者の自己判断で中断すると、血圧が当初の値以上に急上昇して合併症を引き起こす恐れがある点に注意が必要です。
二次性高血圧症は、外科手術などで原因となる疾病の治療によって改善できる場合があります。


医療費・社会的な影響


厚生労働省の調査によると、2021年度における高血圧性疾患の医療費は年間1兆7,021億円にも上ります*2また健保連による調査でも、2022年10月診療分における医療費のうち、本態性高血圧症の医療費は新型コロナウィルス感染症に次いで2位となっている状況です*3


さらに高血圧症の合併症まで含めると、医療費への影響はそれ以上だと考えられます。例えば、高血圧の進行により腎不全が引き起こされて人工透析が必要になると、患者1人当たり月額約40万円もの高額な医療費が発生します。慢性腎不全は「高額療養費における高額長期疾病の特例」の対象となり、患者の自己負担は月1万円(収入要件によっては2万円)までに抑えられますが、その分、保険者の医療費負担が増大します。

*2 厚生労働省保険局調査課「令和3年度国民医療費 主傷病による傷病分類別にみた医科診療医療費の状況」
*3 健康保険組合連合会政策部 調査分析グループ「健保組合医療費上位 30 疾病に関する動向調査 令和 4 年 10 月診療分」


保健事業による対策の考え方


保険者が対策する場合は、特定健診結果に基づいて加入者をグループ分けし、アプローチを使い分けるのが効果的です。


厚生労働省 健康・生活衛生局「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版) 」より抜粋


施策例1:受診勧奨通知など重症化予防プログラム


医療機関の受診が必要な層に対しては、早期受診を促す受診勧奨通知の送付や、個別の保健指導を行う重症化予防プログラムが有効です。


特に受診勧奨では、対象者への伝え方がひとつのポイントになります。事務的な連絡よりも、わかりやすく図やイラストで示したり、文言で自発的な行動を促したり(ナッジ)するよう心がけると、効果を上げやすくなります。なお、通知後も対象者が医療機関を受診しているか、中断していないかをレセプトデータをもとに確認し、フォローアップしたいところです。


参考:JMDCが提供する重症化予防通知サービス


施策例2:若年層を含む特定保健指導の実施


特定保健指導の対象者には高血圧症の基準より低い値の人も含まれますが、血糖値や脂質、腹囲など他の要因との複合でリスクが高くなっている層であるため、合併症の予防に向けた早期アプローチが重要になります。
特定保健指導の実施率が低い場合には、対象者にとって参加のハードルになっていると考えられる原因を分析しながら対策を考えましょう。


<ケース別 特定保健指導実施率向上の工夫の例>

よくある不参加の原因


初回面接時に対象者の危機感が薄れている

健診結果送付後、早めに保健指導を案内する
特定健診会場で初回面接を同時に実施する

日程や場所の関係で対象者が面接指導に参加しづらい

タブレットやスマートフォンからも面接指導を受けられるようにする

対象者が特定保健指導の重要性を認識していない

郵送、電話、メールなど複数の経路から繰り返しアプローチする

コラボヘルスにより、事業主からも受診を促す

特定保健指導の受診にインセンティブを付与する

また、法定の特定健診・特定保健指導の対象とならない39歳以下の若年層も将来的なリスクが高いと考えて保健指導の対象としたり、別途若年層向けのプログラムを設定したりしている事例も見られます。


施策例3:保険者ごとの課題に即した生活習慣改善プログラム


健康層も含めた生活習慣改善プログラムは、加入者全体の健康意識・リテラシーの底上げにつながります。健診結果から保険者ごとに特に課題があると考えられる生活習慣にフォーカスしてプログラムを企画すると、保健事業としての費用対効果アップが期待できます。

例)

  • 喫煙者が多い傾向にある:禁煙に関するセミナーを実施
  • 運動量が少ない傾向にある:インセンティブ付きのウォーキングイベントを実施する

参考:JMDC「Pep Up」を活用したウォーキングイベント


まとめ

  • 高血圧症とは慢性的に血圧が高い状態をいい、塩分過多や運動不足など生活習慣に主な原因があると考えられる本態性高血圧症が全体の9割を占める。
  • 高血圧症の進行や、高血糖・脂質異常・肥満などとの複合により、心筋梗塞や脳卒中など深刻な合併症が引き起こされるリスクがある。
  • 高血圧症の医療費規模は生活習慣病の中でも最多で、合併症を含めるとさらに影響は大きいと考えられる。
  • 保健事業での対策としては、受診勧奨通知などの重症化予防プログラム、若年層も含めた特定保健指導の実施、健康層を含めた生活習慣改善プログラムなどが考えられる。




(参考情報)
高血圧|病気について|循環器病について知る|患者の皆様へ|国立循環器病研究センター 病院

対象疾患・治療法|生活習慣病部門 - 腎臓・高血圧内科|診療科・部門のご案内|国立循環器病研究センター 病院

高血圧 _ e-ヘルスネット(厚生労働省)

一般社団法人 日本臨床内科医会「わかりやすい病気のはなしシリーズ9 高血圧」

厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査報告」

厚生労働省保険局調査課「令和3年度国民医療費 主傷病による傷病分類別にみた医科診療医療費の状況」

健康保険組合連合会政策部 調査分析グループ「健保組合医療費上位 30 疾病に関する動向調査 令和 4 年 10 月診療分」

厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課「腎疾患対策の取組について」第1回腎疾患対策及び糖尿病対策の推進に関する検討会 資料

厚生労働省 健康・生活衛生局「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版) 」

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