脂質異常症とは【保険者が知っておきたい疾病】
目次[非表示]
- 1.概要
- 1.1.症状
- 1.2.原因・リスク因子
- 1.2.1.低HDLコレステロール血症
- 1.2.2.高中性脂肪血症
- 1.2.3.家族性高コレステロール血症
- 2.影響
- 2.1.治療
- 2.1.1.高LDLコレステロール血症
- 2.1.2.低HDLコレステロール血症
- 2.1.3.高中性脂肪血症
- 3.医療費・社会的な影響
- 4.保健事業による対策の考え方
- 4.1.施策例1:特定健診の継続受診に向けた取り組み
- 4.2.施策例2:特定保健指導の実施率向上
- 4.3.施策例3:医療機関への受診率向上
- 5.まとめ
概要
脂質異常症とは、血液中に含まれる脂質の値が正常値の範囲から外れる病気です。主な脂質にはコレステロールと中性脂肪があり、脂質異常症は以下の3つのタイプに分けられます。
- 高LDLコレステロール血症:LDL(悪玉)コレステロールが多い場合
- 低HDLコレステロール血症:HDL(善玉)コレステロールが少ない場合
- 高中性脂肪血症:中性脂肪(トリグリセライド)が多い場合
血液検査で「総コレステロール値」「LDLコレステロール値」「HDLコレステロール値」「中性脂肪値(トリグリセライド)」を調べることで、脂質異常症かどうかを判定します。
「脂質異常症の診断基準」
厚生労働省e-ヘルスネット「脂質異常症の原因と改善方法」より抜粋
以前は「高脂血症」と呼ばれていましたが、2007年に「脂質異常症」に診断名が変更されました。
症状
脂質異常症になっても、見た目の変化や痛みなどはなく、脂質が高濃度になっても通常は自覚症状がありません。血中脂質の多い状態が続くと血管がつまりやすくなり、動脈硬化が進んでいきますが、この場合も無症状で進行していく特徴があります。
原因・リスク因子
脂質異常は遺伝など本人の体質的な要因と、食事・運動・飲酒習慣などの生活習慣が組み合わさって生じます。高LDLコレステロール血症
生活習慣では動物性脂肪(肉類や乳製品など)が多く含まれる食べ物やコレステロールの多い食べ物(鶏卵、レバーなど)、飽和脂肪酸(脂身・バター・インスタントラーメンなど)の摂りすぎが高LDLコレステロール血症の要因として挙げられます。
低HDLコレステロール血症
生活習慣では運動不足や肥満、喫煙などがHDL(善玉)コレステロールを減らす要因になります。
高中性脂肪血症
生活習慣では脂質や甘いものが多い高カロリー食に偏りがちな食生活、日常的な食べ過ぎ、飲み過ぎなどが原因になります。特にアルコールを飲み過ぎる人、糖分の入ったソフトドリンクを習慣的に飲む人は高中性脂肪が多い傾向にあります。
家族性高コレステロール血症
主に遺伝的な要因から発症する「家族性高コレステロール血症」は、300人に1人程度の遺伝性疾患です。36~100万人に1人程が発症する重症ケースの場合は指定難病になります。
影響
脂質異常症を放置すると、自覚症状がないまま動脈硬化が進んでいきます。動脈硬化によって、心疾患(狭心症・心筋梗塞・大動脈瘤など)や脳血管疾患(脳出血・脳梗塞)など命に関わる危険性のある循環器病の疾患リスクが高まります。
参考:厚生労働省 広報誌「厚生労働」案内_みんなで知ろう! からだのことより抜粋
治療
脂質異常症を引き起こす大きな要因となる生活習慣を改善すると、数値も改善しやすくなります。したがって、脂質異常症の治療はまず食事療法と運動指導からスタートします。
高LDLコレステロール血症
LDLコレステロールの低下が期待できる食事療法として飽和脂肪酸やコレステロールの摂りすぎを改善し、食物繊維を積極的に摂るようにします。
低HDLコレステロール血症
低HDLコレステロール血症の原因となる肥満・喫煙・運動不足を改善するべく、運動や減量、禁煙によってHDLコレステロールの上昇を目指します。
高中性脂肪血症
糖質、酒、油ものが多い食生活を改め、運動や減量を行って、中性脂肪の低下を試みます。また中性脂肪を下げる効果が期待できる青魚を含む食事も推奨されます。
医療費・社会的な影響
2022年度において脂質異常症(高脂血症)で受診した人は年度平均158万人で、生活習慣関連10疾患のうちもっとも高い受診者数となっています。また同年度における脂質異常症の医療費は、入院で年間10億円、入院外で716 億円でした*1。
また、脂質異常症を放置することで疾患リスクが高まる循環器疾患には脳卒中や脳血管性認知症、心不全などがありは、長期間の介護が必要になるケースも珍しくありません。これら循環器系の疾患が医療費に占める割合は2022年度で18.2%と傷病分類別では1位となっており*2、社会的影響が大きくなっています。
*1 健康保険組合連合会「令和4年度 生活習慣関連疾患の動向に関する調査」
*2 厚生労働省「令和4(2022)年度 国民医療費の概況」
保健事業による対策の考え方
脂質異常症は、食事や運動などの生活習慣を見直すことで改善できます。健康診断で、診断基準により脂質異常症となった人やリスクの高い人に対して、生活習慣の指導を継続して行うことが重要です。
施策例1:特定健診の継続受診に向けた取り組み
コレステロールや中性脂肪など血液中の脂質の変化を経年的に把握するために、特定健診の定期的・継続的な受診を促します。継続受診率の向上に向けた施策としては、次のようなものが考えられます。
<健診を継続受診させる工夫の例>
- 前年度の健康診断の結果を郵送する
- 電話やメール、アプリなど、郵送以外の受診勧奨方法を導入する
- 「健康年齢®」などキャッチーな指標で受診者の興味を引く
- 経年的にデータを提供し、継続受診のメリットを感じてもらう
- 継続受診に対してポイントなどのインセンティブをつける
参考:JMDC「健康年齢」レポート
施策例2:特定保健指導の実施率向上
特定保健指導の対象者判定基準のうち、脂質異常症に関わる数値は以下の通りとなっており、低HDLコレステロール血症または高中性脂肪血症の加入者を抽出できます。
<脂質異常症に関わる特定保健指導対象者の選定基準>
または
|
特定保健指導は数カ月に渡って実施されるため、対象者のモチベーションを維持させる施策がカギになります。
<特定保健指導の実施率向上の工夫例>
- 特定健診の当日に初回面接を実施
- 特定健診への申込フォームをWebサイトに作成し、申し込みしやすくする
- 対面だけでなく、初回面接や指導にオンラインを導入する
- 電話フォローで指導途中での脱落を防ぐ
- 特定保健指導の完了者にインセンティブを設定
施策例3:医療機関への受診率向上
特定健診で脂質異常を指摘されてから半年以内に医療機関を受診する人は15〜20%程度と、異常値の割合が高い人でも8割近くの人が受診していないのが実情です。レセプトデータをもとに未受診者を抽出して「重症化予防通知」を送信するなど、積極的な受診勧奨が重要になります。
併せて、加入者向けアプリなどで健診結果を視覚的にわかりやすく示し、危機感を促すのも有効です。
参考:JMDC「Pep Up」
まとめ
- 脂質異常症は、食生活や運動などの生活習慣が主な要因となって発症するケースが多い。
- 脂質異常症を放置すると自覚症状がないまま動脈硬化が進み、心疾患や脳血管疾患など循環器系疾患の疾患リスクが高まる。
- 脂質異常症の年間医療費は700 億円以上、さらに脂質異常症から引き起こされる循環器系疾患が医療費に占める割合は傷病分類別で1位となっており、社会的影響が大きい。
- 保健事業での対策としては、特定健診・特定保健指導の受診率向上、医療機関未受診者に対する受診勧奨通知などが考えられる。
(参考情報)
脂質異常症_e-ヘルスネット(厚生労働省)
脂質異常症_循環器病について知る(国立循環器病研究センター)
【脂質異常症】 コレステロールと中性脂肪がたまると...(全国健康保険協会)
家族性高コレステロール血症(FH)とは?(日本動脈硬化学会)
みんなで知ろう! からだのこと(厚生労働省)
高齢者の脂質異常症とは(健康長寿ネット 公益財団法人長寿科学振興財団)
「令和4年度 生活習慣関連疾患の動向に関する調査」(健康保険組合連合会)
特定保健指導の質向上に向けた取組に関する好事例集(厚生労働省)
健診で脂質異常を指摘されても医療機関を受診しない集団の特徴を解明(筑波大学)
生活習慣病の予防と早期発見のために がん検診&特定健診・特定保健指導の受診を!(政府広報オンライン)
厚生労働省「令和4(2022)年度 国民医療費の概況」