【常務理事・理事長向け】 健保連「令和5年度決算見込資料」のポイントを解説
2024年10月3日、健保連は「令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について」を発表しました。依然として厳しい健保組合の財政状況が明らかになるとともに、今後注視すべき課題なども提示されています。
現状を踏まえて次年度以降の健保運営にどう活かすべきか、ポイントを押さえながら解説します。
※各数値は、2024(令和6)年8月までに報告のあった1,379組合の数値に基づき 、 同年3月末時点に存在する 1,380組合ベースで推計されています。 推計対象の1組合については2022(令和4)年度決算数値をもとに算出されています。
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経常収支は2,734億円悪化 52%の組合が赤字に
健康保険組合連合会「令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-5年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用
2023(令和5)年度における健保組合全体の経常収支状況は上図の通りとなっています。収支差引は1,367億円の赤字で、前年度から2,734億円悪化の見込みです。また赤字に陥っている組合は全体の52.6%と、前年度から168組合増加、黒字組合は654組合まで減少しています。
収支の詳細を見てみると、保険料収入は前年度比2.7%増(2,295億円増)の見込みとなるものの、支出増に追いついていない状況です。支出増の主な要因として「保険給付費」と「高齢者等拠出金」の増大が指摘されています。
健康保険組合連合会「令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-5年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用
保険給付費
医療費に直結している保険給付費は前年度比+5.3%(2,398億円増)と、2022(令和4年)度に引き続き、大幅に増加する見込みです。新型コロナウイルス感染症を始めとする呼吸器系疾患などの流行が背景にあるとされています。
高齢者拠出金
高齢者拠出金は前年度比+7.3%の2,469億円と大幅に増加。2022(令和4)年度の一時的な金額減少の反動などが背景にあると考えられます。中でも後期高齢者支援金は団塊世代が75歳に達し始めた影響で、前年度比9.6%増の1,884億円と急増する見込みです。
義務的経費(法定給付費+高齢者等拠出金) に占める拠出金負担割合は 44.1%と、前年度から0.5ポイントの増加に。拠出金負担割合が40%台の組合は6割を超え、厳しさを増す拠出金負担の実態が改めて明らかになっています。
参考:保健事業費
データヘルス計画を含む保健事業費は、前年度比 2.7%(101億円) 増の3,815億円となる見込みです。
収支均衡のための実質保険料率は9.35%
健康保険組合連合会「令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-5年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用
適用状況と各種財政指標については、組合数は1,380組合と、前年度と比べて3組合減。また各組合が設定した保険料率の平均は9.27%で、前年度から0.01ポイント上昇しています。
収支均衡に必要な実質保険料率は9.35%となっており、前年度から0.24ポイントの上昇に。協会けんぽの平均保険料率10.00%以上の料率を設定している組合は、全体の22.8%に上っています。
2024年(令和6)度推計では1,700億円の赤字に
健康保険組合連合会「令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-5年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用
健保連による2024(令和6)年度の財政推計は上図の通りとなっています。同年度の春闘による賃金引き上げによって保険料収入の増加が期待されるものの、試算では1,700億円の赤字に。平均保険料、実質保険料率ともに前年度比で0.5ポイント以上上昇すると推測されています。
高額療養費の急増と団塊世代の後期高齢者入りが影響
支出推計の詳細を見ていくと、保険給付費は前年度比3.5%増、新型コロナ影響前の2019(令和元)年度と比較すると19.0%増との予測です。背景として、医療の高度化や高額薬剤の保険適用による近年の高額療養費の急増が考慮されています。
健康保険組合連合会「令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-5年度決算見込と今後の財政見通しについて-」より引用
高齢者拠出金は引き続き団塊世代が後期高齢者になっていく状況を踏まえ、前年度比3.5%増、2019年度比12.2%増と推計。保険料収入の伸び(11.2%増)を上回る見通しとなっています。さらに高齢者拠出金は2025年度以降も、毎年1,000億円〜2,000億円規模で増加すると予測されています。
なお、医療費については、2024年4月から6月の伸び率は3カ月平均で1.3%と低下傾向にあるものの、引き続き以下の影響を慎重に見守る必要があるとしています。
<医療費への影響を注視すべき動向>
- 診療報酬の改定(2024(令和6)年度)
- 新型コロナ対応の変更(2023(令和5)年度10月~)
- 診療報酬上の特例の段階的廃止
- コロナ治療薬の自己負担導入 など
各保険者での拠出金・医療費抑制の取り組みが求められる
今後の財政影響が危惧される中、健保連は前期・後期高齢者の窓口負担割合の見直しや、高額療養費の自己負担限度額の見直し、高額医療交付金交付事業への国庫補助金の増額といった対応の必要性を訴えています。
各保険者では改めて拠出金、医療費抑制に注力し、可能な限り財政強化を図りたいところです。下図の通り、各保険者の課題に即した費用対効果の高い保健事業の推進が改めて重要であると考えられます。
<各保険者における財政強化対策>
高齢者拠出金の抑制 |
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前期高齢者納付金対策 |
65歳〜74歳の医療費適正化に向けた、
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後期高齢者支援金対策 |
保険者インセンティブ制度において、
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長期的な医療費抑制 |
データに基づいた費用対効果の高い保健事業への投資 |
おわりに
団塊世代が後期高齢者へ移行しつつある中、拠出金負担の急増などによって健保組合の財政状況は一段と厳しさを増しています。
組合内では対応しきれない外部的な要因の影響は大きいものの、医療費適正化や拠出金の減算につながる各組合の保健事業の重要性は一層増しているといえるでしょう。引き続き、医療費などの最新動向を注視しつつ、取り組みの強化を検討していきたいところです。
(参考情報)
健康保険組合連合会「令和5年度 健康保険組合 決算見込(概要)について-5年度決算見込と今後の財政見通しについて-
健康保険組合連合会「令和 5 年度 健康保険組合決算見込と今後の財政見通しについて(概要)」