
2024年度加算・減算実績からみる、第4期総合評価の現状と「効率よく評価を得る4つの対策」
厚生労働省より「2024年度の後期高齢者支援金の加算・減算について」が公表されました。減算対象の健保組合は前年度から約4割も激減し、第4期(2024年度)制度における評価基準の厳格化が実数として浮き彫りとなっています。
今後の総合評価指標において、限られたリソースで効率よく得点を獲得するためには、戦略的な対応が不可欠です。
具体的には、保険者申告で確実に評価される「プロセス指標(体制整備等)」で基礎を固めつつ、配点の比重が高まっている「アウトカム指標(健康改善)」で上積みを狙うことです。
また、健康保険組合連合会(以下、健保連)の「『ポスト2025』健康保険組合の提言」(以下、提言)と連動した重点領域に注力しながら、厚労省の「加算・減算制度に関するQ&A」でも認められている「1つの事業で複数指標を満たす事業設計」が認められている点も示されています。
本記事では、公表データからみえる減算対象保険者の大幅な減少実態と、その背景にある制度の仕組みを解説します。そのうえで、今後の制度を見据えて注力すべき「4つの対策領域」と効率よく評価を得るための「4つの具体的な事業設計パターン」を整理します。
目次[非表示]
- 1.【現状】2024年度減算対象健保組合は約4割減の229組合、「上位20%」要件化が影響
- 2.減算5区分のピラミッド構造とシビアなボーダーライン
- 3.総合評価の向上に向けた「2つの評価軸」の理解
- 4.注力すべき「4つの対策ポイント」〜ポスト2025を見据えて〜
- 5.効率的な「4つの事業設計パターン」(複数指標の達成)
- 5.1.パターン1:歯科健診 × 受診勧奨の徹底
- 5.2.パターン2:ICT(民間PHR等の健康アプリ)の活用 × インセンティブ付与
- 5.3.パターン3:レセプトデータ活用 × 適正服薬支援(ポリファーマシー)
- 5.4.パターン4:事業主との連携(コラボヘルス) × 多様な健康課題対策
- 6.まとめ
【現状】2024年度減算対象健保組合は約4割減の229組合、「上位20%」要件化が影響
「2024年度の後期高齢者支援金の加算・減算について」によると、新たに減算(インセンティブ)対象となった保険者は229組合(うち健保組合は216組合)。前年度の406組合(うち健保組合376組合)から約4割(43.6%)も減少する厳しい結果となりました。
この大幅減の最大の要因は、第4期(令和6年度〜)から「総合評価指標の合計点数が上位20%に該当すること」が新たに減算要件とされたためです。単に一定の保健事業を実施するだけでは減算枠に入れず、他組合の動向も踏まえた「相対評価」への対応が求められる厳しい制度へと変化しました。

2024年度の後期高齢者支援金の加算・減算についてより引用
2024年度実績において、最も上位の第1区分に入るには「146点以上」、第5区分に入る最低ラインは「105点」でした。

2024年度の後期高齢者支援金の加算・減算についてより引用
一方、加算(ペナルティ)対象は79組合(うち健保組合72組合)で、加算総額は約17億円に上っています。
減算5区分のピラミッド構造とシビアなボーダーライン
減算対象となる上位20%の保険者は、獲得点数に応じて第1区分から第5区分までの5段階に分けられます。上位区分ほど高い減算率が適用され、各区分の構成比は下位ほど高くなる「ピラミッド型」です。

2024年度の後期高齢者支援金の加算・減算についてより引用
実際の点数分布を見ると、当落線上に同点(145点等)で並んだ場合、区分の構成比要件を満たすために下位区分へ割り当てられるケースも発生しており、1点を争う非常にシビアな状況となっています。

2024年度の後期高齢者支援金の加算・減算についてより引用
また、これらのボーダーラインは相対評価によって事後的に決まります。他組合の対策が進み全体の点数が底上げされれば、来年度以降のボーダーはさらに上がる可能性もあるため、ギリギリを狙わず余裕を持った得点計画の策定が求められます。
総合評価の向上に向けた「2つの評価軸」の理解
今後の対策において重要な視点が、総合評価指標(全200点)における評価項目の「2つの評価軸」を理解することです。
■評価軸A:成果が求められるもの(アウトカム評価)
【配点:最大80】
肥満解消率や要医療者の医療機関受診率など、対象者の数値や行動が「どれだけ改善したか」という結果(成果)が問われる項目。2025年度の配点見直しにより、「最大10点」が配点される高配点項目が多数存在します。
主に国が保有するNDB(ナショナルデータベース)から自動集計され、厳格に評価されます。
【2025・2026年度】総合評価指標の配点見直し
(アウトカム評価に最大10点の配点)

厚生労働省保険局保険課「後期高齢者支援金の加算・減算制度の見直しについて(別紙)」より抜粋
■評価軸B:体制整備等が評価されるもの(プロセス評価)【配点:最大120点】
デジタル・PHRの体制整備や、事業主とのコラボヘルス体制の構築など、保険者が特定の仕組みを「整備したか」、あるいは事業を「実施したか」が問われる項目。単独で「最大9点」が獲得できる高配点項目(適正服薬の取組など)も存在します。
主に保険者からの自己申告制で、要件を満たせば確実に評価(点数)を得ることができます。
【2025・2026年度】総合評価指標の配点見直し
(プロセス評価に最大9点の配点)

厚生労働省保険局保険課「後期高齢者支援金の加算・減算制度の見直しについて(別紙)」より抜粋
2025年度以降は、「特定健診・特定保健指導の実施率」の配点が引き下げられ、アウトカムの配点が強化されました。
したがって、総合評価指標において、高得点を目指すためには、確実に取り組めば評価される「評価軸B(プロセス)」で基礎を固めた上で、いかに加入者の健康状態を改善させ「評価軸A(アウトカム)」で評価を上積みできるか、という点に尽きます。
注力すべき「4つの対策ポイント」〜ポスト2025を見据えて〜
どのような保健事業に注力していくかを検討する際に、各組合の健康課題に応じた事業を選定することはもちろん、今後の事業設計では、健保連の「『ポスト2025』健康保険組合の提言」が掲げる「5つのチャレンジ」の方向性と、総合評価指標を連動させた以下の4領域への対応が有効です。

健康保険組合連合会「「ポスト2025」健康保険組合の提言 概要版 2025年9月」より引用
① 重症化予防と「かかりつけ医との連携」による受診勧奨
2025年度から配点が強化された重症化予防において、単なる受診勧奨にとどまらず、実際の「医療機関受診率」の把握や「検査結果(HbA1c等)の改善」まで追うプログラムが求められます。
② 「データ分析・デジタル活用」による加入者サービスの充実
ICTや健康アプリ等を活用した事業展開と、加入者自身が健診情報を閲覧できる仕組み(PHR)の整備が評価されます。
③ 「実施率」から「アウトカム(数値改善)」を追う保健指導へのシフト
2025年度から評価の軸が「実施率」から「成果」へシフトしたことに伴い、NDBから自動集計される「肥満解消率」や「3疾患の状態コントロール割合」といった、具体的な数値の改善効果を創出する事業が必須となります。
④ コラボヘルスの進化と「多様な働き方・健康課題」への対応
事業主とのコラボヘルス体制を基盤とし、「性差に応じた健康支援(女性特有の課題等)」「こころの健康づくり」「ロコモ対策」「こどもの適切な医療受診の周知」など、新たな社会課題への対応が加点対象となります。
効率的な「4つの事業設計パターン」(複数指標の達成)
求められる保健事業の幅が大きく広がる中、限られた予算と人員の中で重要になるのが、1つの事業で複数の評価指標を満たす「効率的な事業設計」です。
厚生労働省の「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&A」においても、複数の指標を一つの取組で達成することは、「問題ない」」と示されています。
この見解に基づき、複数得点を満たす効率的な事業設計パターンを4つご提案します。
パターン1:歯科健診 × 受診勧奨の徹底
【内容とポイント】
歯科健診を実施し、その結果や特定健診の質問票から対象者を設定して歯科医療機関への受診勧奨を行う事業です。健診を実施するだけでなく、結果に基づいた「個別の受診勧奨」のプロセスをしっかり組み込む。
【獲得指標】
- 大項目3-①「個別に受診勧奨・受診の確認」(5点)
- 大項目6-④「歯科健診・受診勧奨」(8点)
Q7.【全般】複数の指標を一つの取組で達成することは問題ないですか。
(例:歯科健診を実施し、特定健診の標準的な質問票(13.食事をかんで食べる時
の状態はどれにあてはまりますか 等)と歯科健診の結果から対象者を設定し歯
科医療機関への受診勧奨を実施。大項目3-①「個別に受診勧奨・受診の確認」
と大項目6-④「歯科健診・受診勧奨」を達成する。)
A. 問題ありません。
厚生労働省 第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&Aより引用
パターン2:ICT(民間PHR等の健康アプリ)の活用 × インセンティブ付与
【内容とポイント】
健康アプリなどのデジタル技術を活用し、加入者の予防・健康づくりの取り組みや成果に対してポイント等のインセンティブを付与する事業です。デジタル技術を導入するだけでなく、事業実施後に加入者の「行動変容」に繋がったかを検証(PDCA)し、国へ報告を行うことが求められます。
【獲得指標】
- 大項目1-①「デジタル活用推進」(6点)
- 大項目7-⑧「インセンティブを活用した事業の実施」(6点)
Q9.【大項目1-①】「ICT やデジタル技術等(健康に関するアプリケーションなど) を活用した事業」とありますが、どのような事業が該当しますか。
A. アプリケーションの使用を必須としているものではありませんが、例えばウェアラブル端末を活用したライフログデータの収集、分析といったデジタル技術や ICT 等を個人情報に配慮したうえで活用した事業などが該当します。
厚生労働省 第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&Aより引用
パターン3:レセプトデータ活用 × 適正服薬支援(ポリファーマシー)
【内容とポイント】
レセプトデータを活用して対象者を抽出し、服薬情報の通知や個別指導を実施した上で、実施前後の評価と国への報告を行います。対象者の抽出基準は保険者自身で設定でき、この一連のプロセスを確実に行うだけで「9点」という高得点が獲得可能です。併せて、重複投薬・多剤投与に関する情報提供を組み合わせることで、さらに点数を上乗せできます。
【獲得指標】
- 大項目5-③ 加入者の適正服薬の取組の実施と評価(9点)
- 大項目5-④ 重複投薬・多剤投与対策(3点)= 計12点
Q24.【大項目5-③】適正服薬の取組の対象者の抽出基準は決まっていますか。
A. 保険者において設定した抽出基準で差し支えありません。
Q28.【大項目5-③】「取組内容について国への報告を行っていること」とありますが、どのような方法で報告を行いますか。
A. 総合評価指標に関する取組実績の報告の際に併せて、健保組合はデータヘルス・ポータルサイトで、共済組合及び全国土木建築国保組合はエクセル媒体で取組内容を報告していただきます。
具体的には、当該取組について「背景・目的」「事業内容」「事業の成果」を報告していただき、関連する報告資料があれば任意でファイルを提出していただくことを想定しています。
厚生労働省 第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&Aより引用
パターン4:事業主との連携(コラボヘルス) × 多様な健康課題対策
【内容とポイント】
事業主と共同(コラボヘルス)で、メンタルヘルスや女性特有の健康課題に関するセミナー・環境整備を実施する事業です。これまで健保単独で行っていた健康教育を事業主との共催にする、あるいは既存の事業所向けセミナーのテーマを工夫することで、複数の大項目を網羅的に満たすことが可能に。
【獲得指標】
- 大項目4-①「コラボヘルスの体制整備」(6点)
- 大項目7-⑦「こころの健康づくり」(5点)
- 大項目7-⑩「性差に応じた健康支援」(5点)
Q6.【全般】事業主が実施する取組は評価対象になりますか。
A. 保険者と事業主が共同で実施する取組であれば評価対象です。共同で実施するとは、具体的には、保険者と事業主が連名で行うこと、準備段階から事業主を交えた打合せを行うこと、役割分担を明確化し連携して行うこと等が該当します。
Q46.【大項目7-⑩】「女性特有の健康課題への支援等の性差に応じた健康支援・保健事業」とありますが、どのような取組が該当しますか。
A. 例えば、女性特有のがん検診の費用補助や月経前症候群(PMS)、更年期障害、若年層のやせ対策に関する研修の実施、管理職のリテラシー向上に資する啓蒙活動などの取組が該当します。
厚生労働省 第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&Aより引用
まとめ
後期高齢者支援金の減算要件が「上位20%必須化」と厳格化された現在、減算を目指すために保健事業へ取り組まれている保険者の皆様であっても、従来の「実施率向上」を中心としたアプローチだけでは、ボーダーラインの突破にはこれまで以上の工夫が求められる厳しい状況となっています。
近年は制度改正や新たな業務対応なども重なる中、限られたリソースを最大限に活かし、今後は「体制整備」等のプロセス指標で着実に基礎を固めつつ、データに基づいた「健康改善(アウトカム)」の創出に注力することが重要です。そして、事業主と連携し、「1つの事業で複数指標を満たす効率的な事業設計」へシフトしていくことが、加算回避・減算獲得に向けた着実な一歩となります。
(参考情報)
2025年度以降の後期高齢者支援金の加算・減算制度における 総合評価指標の改正について(令和6年9月 27 日)
※上記資料には以下が含まれます。
・第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度について (2025・2026年度)
・(別紙)第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度に関するQ&A (2025 年度以降支援金)
健康保険組合連合会「「ポスト2025」健康保険組合の提言 概要版 2025年9月」



