【保険者向け】保健事業に補助金が出る!代表的な制度と採択のポイント
保健事業の拡充に当たり、とりわけネックになりがちなのが予算面です。4割を超える健保組合が赤字との発表もある中(健保連、2022年度決算見込み)、たとえ取り組むべき健康課題を把握できていたとしても、なかなか解決に向けて着手できないケースは少なくないでしょう。
こうした実態に対し、保険者が厚生労働省から補助金を受けて保健事業を行える仕組みがあることをご存知でしょうか。今回は保険者向けのさまざまな補助金・助成金の中から代表的な制度をピックアップし、2023(令和5)年度の実施実績をもとに解説します。
(令和6年度以降は公募要件や補助金額などが変更になる可能性があります)
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PFS事業・共同事業(高齢者医療運営円滑化等補助金)
「令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における
公募事業説明会(PFS事業および共同事業)」(厚生労働省)より抜粋
正式名称は「高齢者医療運営円滑化等補助金における健康保険組合による保健事業」といいます。公募の枠組みは「PFS事業(成果連動型民間委託契約方式保健事業(国庫債務負担行為分))」と「共同事業(レセプト・健診情報等を活用したデータヘルスの推進事業(保健事業の共同化支援に関する補助事業))」の2種類です。
2023(令和5)年度はいずれも2月に公募要項が公開され、3月中旬を期限に申請、4月中に採択が決定するスケジュールとなっていました。
PFS事業:各年度上限1,000万円まで、最大3年度
「令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における公募事業説明会(PFS事業および共同事業)」資料より抜粋
一般的にPFS事業とは、国や自治体などが社会課題解決を目的とした事業を民間事業者に委託し、あらかじめ設定した成果指標の達成度合いに応じた額の委託報酬を支払う仕組みの公共事業のことをいいます。保健事業におけるPFSでは、民間ヘルスケア事業者が保険者の健康課題に応じた成果指標を設定し、その指標が保健事業を通じてどれだけ改善(受診率向上や保健事業を進める上での事業内容の改善 )されたかに応じて、保険者が委託報酬を支払います。 この際の委託費用について、保険者が厚生労働省から補助を受けられる仕組みです。成果によって委託報酬額が変わる仕組みが民間ヘルスケア事業者にとってのインセンティブとなり、結果として保健事業の費用対効果向上が期待できます。
補助金額は1組合当たり各年度上限1,000万円までで、最大3年度まで補助を受けられる形となっています(2023(令和5)年度公募の場合)。採択数は2021年度は14件、2022年度は16件、2023年度は8件となっています。
「令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における健康保険組合による保健事業(PFS事業・共同事業)の公募について」(厚生労働省)より抜粋
申請方法
応募の際は事業の区分を6種類から選び、詳細な事業計画を申請書に記載して提出します。具体的な区分と主な記入項目は以下の通りです。
<保健事業区分> B. 生活・運動習慣改善 C. 受診勧奨・重症化予防 D. 上手な医療のかかり方 E. 包括型(複数種類の保健事業を包括したもの) F. その他(上記のいずれにも該当しないもの) <申請書の記入項目(抜粋)>
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採択に向けたポイント~成果指標の設定
応募時のポイントとして、厚生労働省の説明資料でも特にフィーチャーして説明されているのが成果指標の設定です。成果指標としてはアウトプット指標よりもアウトカム指標(医療費適正化の効果、医療費以外の費用削減効果、健康効果など)を設定することが望ましいとされています。アウトプットを成果指標として設定する場合も、最終的なアウトカムを見据え、その位置づけを明確にして申請書に整理。また、目標値は従来の取り組み状況などを踏まえ「現実的かつ野心的な水準」で設定するよう求められています。
「令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における公募事業説明会(PFS事業および共同事業)」資料より抜粋
共同事業:上限500万円、単年度
「令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における公募事業説明会(PFS事業および共同事業)」資料より抜粋
複数の保険者や民間のヘルスケア事業者などがコンソーシアムを形成し、共同で保健事業を実施する取り組みを対象に、運営費用などを補助する制度です。保健事業の共同化により、リソースが限られる中小規模の保険者(健保組合)でも民間のヘルスケア事業者を活用した十分な保健事業を効率的に行えるようになります。
補助金額は上限500万円まで、補助期間は同年度中までと単年度の補助となります(2023(令和5)年度公募の場合)。採択事業数は2021年度は3件、2022年度は6件、2023年度は3件でした。
「令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における健康保険組合による保健事業(PFS事業・共同事業)の公募について」(厚生労働省)より抜粋
申請方法
コンソーシアムの主幹健康保険組合が申請者となり、事業計画などを申請書に記入して提出します。
<申請書の記入項目(抜粋)>
【実施体制】
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採択に向けたポイント~構成メンバーや個人情報の取り扱いに注意
補助要件では、まずコンソーシアムの構成に注意したいところです。コンソーシアムには複数の保険者に加え、ヘルスケア事業者、大学、研究機関、健診機関などが含まれている必要があります。さらに構成メンバーとなる保険者は下記の通り、主に中小規模の組合でなければなりません。
<コンソーシアムに含まれる保険者に関する要件>
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また事業実施の過程でデータの共同利用が想定されるため、個人情報の取り扱いに対する十分な配慮も要件に。そのほか、単独組合で実施する場合と比較して、より効果やメリットが期待できることなども求められます。
共同事業の企画、実施に当たっては以下の資料も参考にするとよいでしょう。
<共同事業の参考資料>
『健康保険組合における保健事業の共同実施推進ガイド』(厚生労働省) |
など |
データヘルス・ポータルサイト「共同事業検索・閲覧機能」 |
など |
保険者による糖尿病性腎症患者等の重症化予防事業(高齢者医療制度円滑運営事業)
糖尿病性腎症患者(人工透析治療導入前段階の患者)や生活習慣病(高血圧症、脂質異常症、糖尿病、高尿酸血症、慢性腎臓病)患者の重症化予防に向け、保険者と医療機関が連携して保健事業を行う取り組みが対象となります。民間ヘルスケア事業者が提供するサービスで補助金の対象となるものも多く、JMDCの糖尿病性腎症重症化予防プログラム「Pep Up.compass」もそのひとつです。
補助金額は下記の通り、実支出額などをもとに計算されます。ただし、予算と申請保険者数によっては全額補助されるわけではありません。
<補助金額> 以下の1または2の少ないほうに補助率3分の1を乗じた額。 1.基準額(①~③の基準単価×実施人員)の合計 2.(対象経費の実支出額) ー(寄附金、その他の収入額の合計) ※対象経費(抜粋):報酬、旅費、消耗品費、役務費、委託料など |
申請の流れは、例年、前年度の3月に実施要項が公表され、当該年度の6月末日までに申請書を提出するスケジュールとなっています。
採択に向けたポイント~特定健診・特定保健指導実施率が要件に
同事業の補助要件で特に注意したいのは、過去の特定健診・特定保健指導の実施率です。2023(令和5)年度の要綱では以下の通り定められていました。
<特定健診・特定保健指導実施率に関する補助要件>
特定健診 |
特定保健指導 |
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---|---|---|
単一健保組合 |
65%以上 |
10%以上 |
総合健保組合 |
60%以上 |
5%以上 |
そのほか、実施する保健指導が『糖尿病性腎症重症化予防プログラム』(日本医師会、日本糖尿病対策推進会議、厚生労働省)に基づいていることも要件になっています。保険者自ら判断するのは難しい場合もあるため、委託先の民間ヘルスケア事業者に確認が必要です
おわりに
限られたリソースで成果の高い保健事業を行うために、公的な補助金・助成金はぜひ活用したいところです。PFS事業、共同事業といった比較的新しい取り組みについては、過去の採択事例を参照しながら実施体制、方法を検討するとよいでしょう。
PFSとコンソーシアムについては、例年より申請時期が早かったため、民間事業者と早めに相談をすることもポイントです。特に共同事業は複数健保の取り組みなので、調整に時間がかかるケースもあります。民間ヘルスケア事業者との連携がカギとなる補助金も多いため、申請を検討する際は適宜委託先に相談することをおすすめします。
(参考情報)
令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における健康保険組合による保健事業(PFS事業・共同事業)の公募について
「令和5年度高齢者医療運営円滑化等補助金における公募事業説明会(PFS事業および共同事業)」資料(厚生労働省 保険局保険課)
令和5年度高齢者医療制度円滑運営事業実施要綱
平成 30 年度高齢者医療制度円滑運営事業費補助金交付要綱
健保ニュース 2023年9月下旬号「健保組合・令和4年度決算見込 一時的黒字も 赤字組合は全体の4割超 5年度は3600億円の赤字に」健康保険組合連合会