
「攻めの予防医療」が掲げる予防医療モデルとは?第3期データヘルス計画中間見直しで意識したいEBPMの視点
近年、政府が推進している「攻めの予防医療」。その具体的な取り組みのひとつとして、データヘルスを基盤にした予防医療モデルの構築が掲げられています。
保険者が予防・健康づくりでより成果を上げられる仕組みづくりが進むと考えられますが、具体的に保険者にはどのような影響があるのでしょうか。データヘルス計画や保険者インセンティブなど、今後の制度改正にも関わってくると予想される「攻めの予防医療」の最新動向を解説します。
本記事では、内閣官房が公表した「攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議の概要」および令和8年5月25日に取りまとめられた「性差に由来する健康課題等への対応を推進するための論点整理」を一次情報として、保険者に関わる内容を解説します。
【この記事でわかること】
- 「攻めの予防医療」の具体的な取り組みとして挙げられている予防医療モデルの構築では、成果につながる保健事業の工夫を抽出して知見化し、水平展開するプロセスのシステム化が目指されている。
- 予防医療モデルの構築により、データをもとに保健事業の企画や進捗評価をするだけでなく、より効果を上げるための実施方法・体制についても客観的根拠に基づき検証し、改善することが求められるようになる。
- 今後、予防医療モデルの活用が保険者インセンティブに反映される可能性も示唆されている。第3期データヘルス計画の中間見直しから、保健事業のEBPM(証拠に基づく政策立案)化を意識したい。
「攻めの予防医療」とは

政府が推進する「攻めの予防医療」とは、健康寿命の延伸を図り、国民がみな元気に活躍して社会保障の担い手になれるよう、疾病の予防と早期発見、適切な専門機関などへつなげる取り組みを指します。
特に関係省庁の連携が重要になる領域については「攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議」で議論。
主な論点として「①性差に由来する健康課題に対応する医療の推進」「②ライフステージに応じた性差に由来する健康課題への対応の推進」「③企業・保険者等における対応の推進」の3つが掲げられ、それぞれに対する取り組みの方向性が提示されています。
このうち、保険者に直接関わる③「企業・保険者等における対応の推進」を本記事では取り上げます。
「予防医療モデル」構築で保健事業の工夫を体系化

出典:「攻めの予防医療に向けた性差に由来するヘルスケアに関する副大臣等会議の概要」
同会議の概要資料では、論点のひとつである「企業・保険者等における対応の推進」について「データヘルスを基盤とした『予防医療モデル』の構築を通じて、保険者による予防・健康づくりを推進することが重要」であると明記されています。
予防医療モデルとは、各保険者で実践されている保健事業の効果を高める工夫を、再現可能な知見として体系化して水平展開し、保険者全体の施策の質向上を目指すものです。具体的には、次の1〜5の一連のプロセスをシステム化したものであると説明されています(「性差に由来する健康課題等への対応を推進するための論点整理」)。
<予防医療モデル>
- レセプト・健診情報や保健事業の内容などの全国レベルでの集積
- 健康課題の抽出
- 実施した事業内容の明文化
- 共通の評価指標による保険者間の実績の比較
- 効果の高い施策の抽出・共有による全国的な底上げ
将来的には、構築した同モデルとAIを活用し、健康課題を分析したり、効果的な保健事業の選択肢を提示したりして、各保険者が自組合の健康課題に合った保健事業をより効果的かつ効率的に実施できるようにする状態を目指すとしています。
予防医療モデルは、従来のデータヘルスを次のステップに進め、保健事業による予防・健康づくりのモデル化=標準化を進める取り組みであるといえるでしょう。
同資料では、事業主と保険者が一体となって取り組む「コラボヘルス」の推進も、予防医療モデルとあわせて重要な視点として挙げられています。
加算・減算制度への反映も検討予定
同会議が取りまとめた「性差に由来する健康課題等への対応を推進するための論点整理」では、保険者に予防医療モデルの活用を促すため、新たな保険者インセンティブの設計を検討するとしています。後期高齢者支援金加算・減算制度への反映も示唆されており、保険者財政に直結する制度改正が行われる可能性があります。
具体的なスケジュールとしては、令和8年度に予防医療モデルの活用を促す保険者インセンティブの在り方が検討され、令和9年度以降、後期高齢者支援金の加算・減算制度などへの反映も念頭に置いた検証事業が実施される予定となっています。
予防医療モデルの狙いは保健事業のEBPM化
予防医療モデルの背景にあるのは、従来のデータヘルスに対する課題認識です。これまで、各保険者は、自組合の健康課題に応じた保健事業を実施するため、レセプトデータや健診データの分析結果をもとにデータヘルス計画を策定し、PDCAサイクルを回しながら、加入者の予防・健康づくりを推進してきました。
しかし、同会議の取りまとめでは「保険者の取組内容によって成果には差異が生じて」いる現状が課題視されています。
同様の指摘をしているのが、東京大学未来ビジョン研究センター特任教授 古井祐司氏です。古井氏は健保連によるインタビューの中で、同じ特定保健指導でも、保険者ごとのやり方や実施環境の違いによって、実施率が倍以上異なるケースもある実態に触れ、成果につながる条件(事業所の特性、健康課題)や、やり方(方法・体制)を科学的に検証するEBPM(証拠に基づく政策立案)の重要性を主張しています。このように、各保険者による保健事業の実施体制(ストラクチャー)・実施方法(プロセス)部分に課題が残っているという観点から、効果を上げるための工夫(暗黙知)を再現可能な「知見」として標準化するため、予防医療モデルの構築が目指されているのです。
今後、予防医療モデルの構築が進み、保健事業で成果を上げる工夫が「定性データ」として整理されれば、こうした保健事業のやり方の部分についても、客観的根拠に基づいて検証し、改善することがより容易になると考えられます。裏を返せば、今後、このようなEBPMの視点での保健事業運営が一層求められるようになるともいえるでしょう。
中間見直しで実施体制・方法の検証、改善を強化しよう

特別インタビュー「効果的な保健事業への取り組み」(健康保険組合連合会 健康コラムより引用)
予防医療モデルの構築を視野に、令和8年12月(予定)に控える第3期データヘルス計画の中間見直しでも、保健事業のEBPM化を意識したいところです。
関連記事)【ユーザー会|レポート前編】第3期データヘルス計画中間評価・見直しを前に——「攻めの予防医療」が保険者運営を変えていく
データをもとに進捗を確認したり、目標値を再設定したりするだけでなく、実施方法・実施体制の検証、再設計にも注力するようにしてみましょう。保健事業のノウハウの体系化はまだ進んでいませんが、例えば、データヘルスポータルサイトの相互閲覧機能を活用したり、東京都保険者協議会のWebサイトで公表されている他の保険者の保健事業カルテ*を参照したりして、保健事業のやり方を見直し、改善につなげられます。
併せて、今後のノウハウ抽出と知見化に向け、ポータルサイトにおける「実施方法(プロセス)」「実施体制(ストラクチャー)」の欄については、現場で行ってきた保健事業の工夫を、できる限り具体的かつ詳細に記入するよう意識します。例えば、特定健診については「自身のリスクを把握してもらう」「健診機関と連携して受診勧奨する」といった表面的な記述にとどめるのではなく、実施対象の選定基準や加入者へのフォロー手段(電話、オンラインなど)、委託先との役割分担まで具体化しましょう。
参考記事)
第3期は「保健事業の標準化」を意識して~「第3期データヘルス計画の実務的アプローチ〜東京大学古井教授が語る、健康保険組合のこれから」〜セミナーレポート
*保健事業カルテ:古井特任教授ら東京大学未来ビジョン研究センターが開発した、保健事業のノウハウを抽出し、体系化するための様式。同センターは、東京都保険者協議会による保健事業カルテ活用を支援している。
まとめ
「攻めの予防医療」で目指されている予防医療モデルの構築は、データヘルスを次のフェーズへと進め、保健事業のEBPM化を促進する取り組みであるといえます。
今後、予防医療モデルの活用が保険者インセンティブへ反映される可能性も視野に、12月に控える第3期データヘルス計画の中間見直しに取り組みたいところです。
【中間見直しに向けて、まず押さえておきたい実務上のポイント】
- 保健事業のプロセス・ストラクチャーを記録する
実施対象の選定基準やフォロー手段、委託先との役割分担まで、ポータルサイトに書き残しておきましょう。
- 他保険者の実践例を参照する
データヘルスポータルサイトの相互閲覧機能や、東京都保険者協議会が公開している保健事業カルテなどを活用し、自組合の保健事業のやり方を客観的な視点から見直しましょう。
第3期データヘルス計画の中間見直しに向けて、自組合の準備状況をチェックしてみませんか。制度理解・現状把握・健康課題の整理の3つの観点から、2〜3分で確認できます。
JMDCでは、第3期データヘルス計画中間見直しのサポートも行っています。対応にお悩みの際は、以下のフォームよりお気軽にご相談ください。



