
介護予防につながる「骨粗鬆症予防」【保険者が知っておきたい疾病】
被保険者の健康寿命の延伸、ひいては医療・介護費用の抑制のためには、要介護状態にさせないための取り組みが欠かせません。そこで重要なポイントになるのが、骨折リスクを高める「骨粗鬆症」の予防です。
公益財団法人 骨粗鬆症財団によると、日本の骨粗鬆症の患者数は男性410万人、女性1180万人の合計1590万人にも上り、80代の女性では2人に1人が罹患していることがわかっています。
一方で骨粗鬆症は予防ができる病気であり、保険者による対策が功を奏しやすいことも特徴です。今回はそんな骨粗鬆症について、基礎知識や具体的な対策方法をご紹介します。
骨粗鬆症とは?
骨粗鬆症とは、骨の質や骨密度が低下することで骨折のリスクが高まる病気です。骨粗鬆症になると、つまずいたり、くしゃみをしたりしただけで骨が折れてしまうこともあります。
病気の進行スピードは緩やかで、初期段階では自覚症状がないことがほとんどです。定期的に骨密度検査を受けていない場合、骨折してはじめて「骨粗鬆症だった」とわかるケースも多く見られます。
特に骨折が起こりやすい部位のひとつが脊椎で、少しの衝撃を受けたり、自身の体重に耐えきれなくなったりして骨がつぶれてしまう「脊椎圧迫骨折」は、骨粗鬆症による骨折の代表例です。背中が曲がったり、背が縮んだりするのを「加齢に伴う変化」と見逃してしまう方は多くいますが、実は骨粗鬆症が重症化したことによって脊椎圧迫骨折が起きていたという事態は珍しくありません。
骨粗鬆症は女性に多い病気
骨粗鬆症は、特に閉経後の女性に多く見られます。閉経に伴い、骨の健康維持に寄与している「エストロゲン」という女性ホルモンの分泌量が減るためです。さらに、妊娠・出産時にも骨粗鬆症を発症する可能性があります。母体から赤ちゃんにカルシウムが移動することや、ホルモンバランスの乱れが原因です。
そのほか、無理なダイエットも骨密度の低下の原因に。近年は若い女性の痩せが社会問題になっていますが、その影響は骨の健康にも及びます。
介護予防には「ロコモ+骨粗鬆症」の対策が効果的
そんな骨粗鬆症を、単に「骨折の原因になる病気」と捉えるのは危険です。なぜなら、骨折は「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」の進行要因になるため。骨折することで活動に制限がかかると、全身の筋肉量は自ずと低下し、要介護状態に陥るリスクが高まります。
介護予防の重要性が叫ばれる昨今は、多くの保険者がロコモティブシンドローム対策を保健事業の重要なテーマに据え、「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」の周知などを実践しています。そうした取り組みの効果をより高めるためには、骨粗鬆症対策をセットで行うことがひとつのポイント。ぜひ骨と筋肉の両方に着目し、移動機能の包括的な支援を目指してください
保険者が取り組みたい骨粗鬆症予防
骨粗鬆症の予防には、まず以下のような食事・運動習慣の見直しと改善が必要です。
<食事の改善ポイント>
1.「カルシウム(骨の主成分)」「ビタミンD(カルシウムの吸収効率を高める)」「ビタミンK(骨の形成に寄与する)」を多く含む食品を積極的に摂取する。
- カルシウムを多く含む食品:乳製品や小魚、小松菜、大豆製品など
- ビタミンDを多く含む食品:鮭や秋刀魚、シイタケ、キクラゲなど
- ビタミンKを多く含む食品:納豆やホウレン草、ブロッコリー、キャベツなど
2.アルコールやカフェインの過剰摂取を避け、ジャンクフードを控える。
<運動の改善ポイント>
骨には刺激を受けることで強くなる性質があるため、運動量を増やす。特にウォーキングやジョギング、エアロビクス、ウェイトトレーニングなどが効果的。
骨粗鬆症の原因や健康リスクだけでなく、上記のような正しい予防方法も併せて周知し、被保険者の行動変容を促しましょう。
予防のカギは定期的な骨密度検査
骨粗鬆症の予防において最も重要なポイントといえるのが、骨密度検査。現在の骨の状態を正しく知ることで、生活習慣改善や投薬の必要性を判断できるためです。
目安としては、症状の有無を問わず40歳を過ぎた女性は少なくとも5年に1度の頻度で検査を受けることが望ましいとされています。
実際に、すでにさまざまな保険者で被保険者に骨密度検査を促しています。具体的には、費用を補助したうえで健康診断と同タイミングでの受診を推奨したり、郵送型の検査キットを配布したりといった内容です。
そのほか北海道小樽市では、国民健康保険、後期高齢者医療保険の加入者の中から骨折歴や通院状況などから骨粗鬆症リスクが高い方をピックアップし、検査の案内を送付する取り組みを実施。結果的に受診率は向上しており、保健事業の施策検討においても参考になる事例といえるでしょう。
保険者による「骨の健康支援」によるメリットは大きい
骨粗鬆症は、要介護につながるさまざまなリスクの中でも予防ができるもので、昨今多くの保険者で注目されています。保険者が情報発信に努め、また検査を促すことで、被保険者の意識や行動は変えられます。要介護者の削減を目指し、ぜひ取り組んでみてください。
また骨粗鬆症の予防は、「第4期後期高齢者支援金の加算・減算制度」における評価項目(総合評価指標 大項目7「加入者に向けた予防・健康づくりの働きかけ」のうち、小項目10「女性特有の健康課題への支援等の性差に応じた保健事業」と小項目11「ロコモティブシンドローム対策」)にも該当します。
保健事業運営の観点でも、検討することをおすすめします。